ものづくり中小企業の変革と挑戦を支援しているMOBIOでは、MOBIO 常設展示場出展企業様・インキュベートルームの入居企業様の「 変革と挑戦 」について、取り組みのきっかけ(背景)、 具体的な内容などをインタビューしご紹介していきます。ここにはヒントが沢山詰まっているはずです。 じっくりお読みください!
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ゴムから樹脂、金属に至るまで、あらゆる加工に対応
株式会社出雲 代表取締役 大坪 勤 氏
会社名 | 株式会社出雲 |
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住所 | 〒571-0017 大阪府門真市四宮3-9-18 |
電話番号 | 072-887-6226 |
代表者名 | 代表取締役 大坪 勤 氏 |
設立 | 1979年(昭和54年) |
事業内容 | ゴム・樹脂・金属材料の部品加工 重量物搬送台車製造販売など |
ゴム・金属を中心にさまざまな素材の加工を手掛ける
門真市に本社を構える株式会社出雲は、主に産業用の部品製造、精密機械加工を手掛ける企業である。従業員12名ほどの小規模事業者ではあるが、大手電器メーカーをはじめ全国各地の大手メーカーとも直に取引を行うなど、業界内での同社への評価は極めて高い。そんな同社の強みの源泉を、社長・大坪氏へのインタビューを通して探ってみたい。
まず同社の最大のストロングポイントとして挙げられるのが、加工対象となる素材の「幅広さ」であろう。「ゴムやウレタンなどの各種樹脂から、鉄・アルミに代表される金属まで、当社では硬さや特性の異なるさまざまな素材を加工することができます」と語る大坪氏。現状では売上のうち、金属加工が5割、ゴム加工が3割、樹脂加工が2割を占めているそうだが、これらの技術を組み合わせれば、ゴム+金属、樹脂+金属など異なる材質の複合加工を自社内で行うこともできる。
「たとえばメーカーが産業用ゴムローラーを作ろうと思えば、通常はゴム加工と金属加工を別の会社に依頼しなければなりません。この場合、素材同士の相性調整や納期管理などメーカー側に大きな負担が掛かってしまうわけですね。ところが当社では、それらをワンストップで受注することができます。時には図面段階から加工方法のアドバイスなどもさせて頂きますので、高品質・短納期・低価格化が実現できるのです」。
本社工場内には高性能のマシニングセンター、旋盤、検査機器などがずらりと並び、積極的な設備投資への姿勢が窺い知れる。ただし、もちろん社内だけでカバーできる加工範囲には限りがある。そんな際に存在感を発揮するのが、深い信頼関係で結ばれた社外ネットワークの存在だ。創業以来、大坪氏が自らの足で全国を駆け回り、「自社よりレベルの低い協力先は持たない」という徹底したこだわりの元で築き上げられたこの協力会社網。長年の付き合いから、社内レベルに近い短納期での外注制作も可能となっており、この社外ネットワークの存在も、出雲の大きな強みの1つと言える。
何事にも『本気』で向き合い続ける
出雲の創業は昭和54年。もともとシリコンゴムの成型メーカーに勤めていた大坪氏が、東大阪にわずか10坪ほどの工場を開いたことがきっかけだった。当初はゴム加工を専門にしていたが、顧客からの要望に応え続けるうちに、ウレタン、鉄、アルミなど加工素材は自然と広がっていったという。そうして生まれたのが、大坪社長自身が「ものづくりの百貨店」と形容する現在の事業形態だ。平成20年には工場増床のため、社屋および工場を門真の現所在地へ移転。近年では取引先の中にも、大手企業の名が目立つようになった。
「私自身、何か特別なことをしてきたわけではありません。ただ1つ大切にしてきたのは、何事に対しても『本気であり続ける』ことですね。たとえば取引先が無謀な要望をしてきた際は、あえて正直に意見をぶつけるようにします。もちろんこれによって関係が一時的に希薄になることもありますが、きちんと道徳心を持った相手であれば最終的に『本気さ』は必ず伝わるものですから」。大坪氏はこう表現するが、この一貫した姿勢こそ「顧客の要望以上の品質で応えたい」という強い信念の裏付けでもあるだろう。「万事に本気を尽くす」という社長の基本姿勢は、同社の社風としてしっかりと根付きつつある。
会社の次代を担う人材育成に挑戦中
「小粒ながらピリリと辛い」。そんな言葉がピッタリな同社ではあるが、創業30年を超えた現在、1つの大きな変革期を迎えている。大坪氏は言う。「ちょうど門真に移転してきた7年ほど前のことでしょうか。ある時、ふと『私に続くナンバー2、ナンバー3が育っていない』ことに気付いたんです。より規模が小さいうちは、私自身ががむしゃらに頑張ればよかった。ところが企業が成熟してくるこの先、事業の継続や社会的な責任を考えると、私に続く人材が必要となります。今振り返ればこういった人材の不在は、その当時の経営者としての私の力不足を示すものだったと言えるでしょう」。
それ以来、大坪氏の仕事への取り組み方は大きな変化を見せたという。納期管理票のバージョンアップなど実務上の決裁事項は、できるだけ社員自身の手に委ねるようにした。また、これまでたった1人で行ってきた渉外業務も、できるだけ従業員を同行させるようになった。大坪氏の現在の目標は「人を育てる人を、育てる」ことだ。社内では従業員に厳しい顔を見せることが多いという大坪氏だが、これも会社の将来を『本気』で考えているがゆえ。「課題やビジョン、個々の役割や仕事の成果を隠さずにはっきりと伝えること。これこそが、これからの企業が果たさねばならない責任だと考えています」。
社会への還元こそモノづくりの使命
現在、同社は「加工業からメーカーへの転身」を大きな目標に掲げている。これまではメーカーからの依頼に応える「裏方的」なモノづくりを続けてきたが、今後はさらなる付加価値を生み出していかねば存続は厳しくなる。
その第一歩として数年前から開発を続けているのが、移動の困難な重量物を運搬するための“コロ”の役割をする搬送機材役用の小型台車「イズモタンク」である。ゴムや樹脂、金属の加工技術を活かし、小さいながらも十分な強度・剛性を持った自社商品が完成。「現在は電車車両や航空機の機体などで使われる巨大資材の運搬などに実用されていますが、今後もさらなる新市場参入を視野に入れて開発を進めたいですね」と大坪氏は話す。この「イズモタンク」の月間売上を5倍にも伸ばしたいとのことで、今後の展開が楽しみな商品でもある。
ほかにも次世代ロボット開発ネットワーク「RooBo」への加入や、医療機器分野での新商品開発も進めているという同社。今後の展望について大坪氏は次のように語った。「これまで培ってきたさまざまな加工技術を応用し、もっと新しいことにも挑戦していきたいですね。最終的には、モノづくりを通して、人々の生活を良くし、少しでも社会の発展に寄与していきたい。これこそが企業の社会的責任だと思いますし、『モノづくり』のあるべき姿であると考えています」。
取材日:2015年12月16日(水) ライター:田中 哲也
MOBIO担当者より
もの作りへの「本気度」ではどこにも負けない!それがゴムに始まり樹脂、金属へと加工技術を拡大させた根幹。サプライヤーからメーカーへの変革を目指して大坪社長の挑戦は続いていました。(兒玉)