ものづくり中小企業の変革と挑戦を支援しているMOBIOでは、MOBIO 常設展示場出展企業様・インキュベートルームの入居企業様の「 変革と挑戦 」について、取り組みのきっかけ(背景)、 具体的な内容などをインタビューしご紹介していきます。ここにはヒントが沢山詰まっているはずです。 じっくりお読みください!
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次世代を育て、送風機づくりで日本の産業を支える
株式会社共栄製作所 代表取締役 北野 静香 氏
会社名 | 株式会社共栄製作所 |
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住所 | 大阪府大東市新田北町2-13 |
電話番号 | 072-871-3119 |
企業HP | http://kyoueifan.com/ |
代表者名 | 代表取締役 北野 静香 氏 |
設立 | 1972年 |
事業内容 | 各種送排風機の設計・製作・修理、回転体バランス調整、機械加工 |
様々な場所・用途で使われる送風機をオーダーメイドで製作
送風機といえば、「ファンが回転して風を起こすもの」という認識は誰もがお持ちだろう。では、それらはどんなところで使われているのだろうか。創業54年の送風機メーカー、株式会社共栄製作所の代表取締役・北野静香氏は、「日本の産業に送風機は不可欠。意外と身近なところで使われているんですよ」と語る。
例えば食品分野。冷凍食品の工場では、食材に熱風をあてて調理したり、冷風をあてて凍らせるのに送風機が使われている。また、小麦粉や塩など粒子状のものを別の場所に動かすときも、送風機で風を送り、ダクトの中を空気輸送という形で移動させるという。
食品以外では、刃物の付いたファンで紙やプラスチックを粉砕し、風で1ヶ所に集めて資源として再利用するといったケースもある。そのほか車の車速検査の際、実際の走行時と同じ条件にするため送風機で風をあてたり、ゴミ焼却施設では火を燃やすのに必要な酸素を送ったり、煙を排出したりするのに送風機が使われている。
「少し意識して見渡してみると、焼肉屋の煙を排出するダクト、スーパーの屋上に並ぶエアコンの室外機のような機械など、様々なところに送風機を見つけることができるはずです」と北野氏。
送風機とひとくちにいっても、従来の扇風機のような形のものから、近年よく使われているシロッコファンと呼ばれるものなど、羽根の形も多種多様。使う場所や用途によって、風量・風圧・温度なども異なる。同社ではユーザーの要望に合わせて、一つひとつオーダーメイドで設計・製作を行っている。
限られたスペースで多くの風量を必要とする場合は、薄型でもしっかり風量が起こせるファンの仕様を提案。高温の場所で使用するなら、熱で変形する可能性を考慮して素材や溶接方法を選択する。細かい部分に技術力が発揮され、その結晶として唯一無二の製品が完成するのだ。クチコミによる発注が多いというのも、品質に対する信頼の証といえるだろう。
バランシング調整、旋盤加工のみの発注にも対応
株式会社共栄製作所の創業は1968年。北野社長の父である現会長・辻本 英三氏により、送風機製作会社として産声をあげた。2006年には第二工場を設置。2007年には二つの工場を統合する形で、現在の場所に移転。広さ・天井高ともに十分なスペースが確保できたことで、防音BOXのような大物製品の製造も可能になった。
さらに、同社では設計・製作はもちろん、送風機を正しく機能させるために欠かせない回転体のバランシング調整や、古くなり性能がダウンした送風機の修理・メンテナンスまで、すべて自社で一貫して行えることを強みとしている。「バランシング調整だけやってほしい」という要望や、フィールドバランサーを用いて「狭い場所にあって送風機が取り外せないので、現場に来て調整してほしい」といった要望にも対応。数年前には、より精密なバランシング調整が行える新たな機械も導入した。「よく驚かれるんですが、うちは他メーカーの製品でもバランシング調整や修理・メンテナンスを請け負います。送風機は何十年と使い続けるケースも多いので、不具合があればぜひ相談してみてください」と、柔軟な対応力にも自信をのぞかせる。
また、送風機の製造技術を活かし、旋盤加工の単体受注も行っている。こちらも継承してきた職人の技術に加え、コンピュータを搭載した新しい機械の導入により、小ロット~大ロットに対応できる体制を整えている。
「本業である送風機製造を軸に、今後はバランシング調整、旋盤加工の3本柱で、より幅広いニーズに応えていきたい」。そう語る北野氏は、設備の充実と、技術力を活かした対応力を武器に、ホームページの刷新にも取り組むなど、新たな営業戦略にも意欲的だ。
次世代の技術者を育成すべく、社内に新しい風を吹き込む
実は北野氏は、2021年に社長に就任したばかり。「肩書きは社長でも、社内ではまだ未熟者。みんなに教わりながらやっています」と笑う。それまでは同社で経理を担当していた。「現会長の仕事を手伝いながらいろんなことを学んできてはいたけど、いざ社長になってみると、悩むことはたくさんあります。そんなとき会長に相談するとスパッと即決してくれるので、あの判断力はさすがだなと思います。これからは私もそのような判断力・決断力を身につけなくては……」と、自分自身の課題を分析する。とはいえ、「会社を引き継いだ以上、技術を継承して後世に遺していくことは絶対にやり遂げなければならない」と、当然のことながら、社長としての決意と責任感を胸に強く抱いている。
今の時代、営業や設計を希望する若者はいても、現場の技術職となるとなかなか人材が集まらない。そこで、北野氏はまず「会社の古い体質を変える必要がある」と考えている。「父の時代は『技術は目で見て盗むもの』という風潮だったかもしれないが、今の若い人にそれは通用しない。休みの日数等も含め、若い人たちが働きやすい環境づくりをしていくことが、私の役割だと思っています」(北野氏)。会社を存続させていくためには、時代に合わせて変化していくことも必要。代変わりした今が、そのチャンスと捉えているのだ。
暮らしの身近なところにあふれている、日本の産業に欠かせない送風機。その製造技術を継承する次世代の育成は、多くの人にとって無関係ではないはず。若き社長の挑戦を、心から応援したい。
2022年7月7日(木) ライター:成田知子
MOBIO担当者より
身近な生活用品にもかかわるのが送風機。コロナ禍で急増している冷凍食品の急加熱・急冷却の工程でも活用されるなど、風量、風圧を操る送風機の用途は産業用から民生用まで実に広範囲。
そのような、空気を動かすところに必須の送風機を、個別要望に対応し、設計から製造・設置・補修まで一貫対応できるのが強みという企業。新事業の展開も視野にあり、強い思いで「変革と挑戦」を推進されている北野社長。業界で、社内で「新たな風」が巻き起こっていました。 (MOBIO兒玉)