ものづくり中小企業の変革と挑戦を支援しているMOBIOでは、MOBIO 常設展示場出展企業様・インキュベートルームの入居企業様の「 変革と挑戦 」について、取り組みのきっかけ(背景)、 具体的な内容などをインタビューしご紹介していきます。ここにはヒントが沢山詰まっているはずです。 じっくりお読みください!
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まだ世の中にない製品をイメージからカタチにする「なにわの試作屋」
株式会社エムトピア 代表取締役 林 廣守 氏
会社名 | 株式会社エムトピア |
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住所 | 〒577-0024 大阪府東大阪市荒本西3-2-33 |
電話番号 | 06-6782-0001 |
代表者名 | 代表取締役 林 廣守 氏 |
設立 | 1991年(平成3年) |
事業内容 | 外観模型 製品試作模型 簡易金型成型 |
デザイナーのイメージと言葉を、試作で具現化
家電品や工業製品などの商品企画や製品開発において、必要とされることが多い「試作品」。デザインや図面を広げながら言葉で説明するよりも、モニターの中で3Dデータを見るよりも、形にした試作品を実際に手で触れることで、理解できることや制作チーム内で共有できることが多くある。この商品は市場に出て売れそうなのか、今後の戦略にふさわしいデザインなのか、社員やメンバー間でイメージのズレはあるのかなどの判断基準になる。その試作品作りにおいて絶大な信頼を得ているのが株式会社エムトピアである。
3Dモデリングを作成し、それを多種多様な素材と加工方法から、デザイナーのイメージ通りに具現化する。見た目を確認するプロポーションデザインでは、合成木材を中心に汎用樹脂、アルミ、真鍮などの金属から素材を選び、調色や塗装、印刷などの表面処理まで職人の手で仕上げていく。
どのように稼働するかを確認するメカニカルデザインでは、ABS、PC、POM等の汎用樹脂などから素材を選び、MC加工や3Dプリンター、真空注型などの方法で加工していく。仕上げ作業はプロポーションデザインと同じく、職人の手で細かな所まで突き詰められていく。それぞれの作業は完全に分業されており、データ作成、機械のオペレーション、仕上げ加工、塗装、調色、シルクスクリーン印刷、それぞれが専業。一つの作業に専属で従事する事で難易度の高い作業も可能となり、ハイクオリティな試作品を約束する事ができるからなのである。
どのようなオーダーにも対応し満足度の高いクオリティを実現するために使われる機材や技術は、時代の流れとともに著しい進化を経てきた。そして、エムトピアもまた創業以来大きな進化を遂げてきたのだ。
進化する道具と技術で、クライアントの要望に必ず応える!
エムトピアが創業されたのは、大阪で万国博覧会が開催された1970年。当時は家電製品全盛期で、製品の開発と消費行動は活気に溢れていた。家電大手メーカーには、国内や欧米への販売のためのモックアップ(模型)が必要とされていた。「デザイナーとしてのセンスはない。設計者としての高い能力もない。でもその中間にある模型作りなら出来るかもしれない」そう考えた林廣守氏は、「家電の模型屋さん」としてエムトピアを立ち上げたのである。
その頃の試作品は、木を手ノコやノコ盤で切り、ノミやプレーナー(自動カンナ)で削って木型を作り塗装をしたものが主流であった。デザイナーの要望通り美しい仕上がりにしたいが、そこに納期が立ちふさがる。今とは違い、当時は全ての工程が手作業のため、短納期に間に合わせることは至難の業であった。それでも全力で対応し決して諦める事はなかった。創業間もない頃、アメリカからラジカセの買い付けに来たバイヤーに、デザインを気に入ってもらえず、家電メーカーの方々を3日ほど京都観光でもてなした。その間に、バイヤーから聞き出していた要望を元にデザイナーが新たなデザインを作り、満足出来る試作品を完成させたのである。
使用する素材は木からアルミ、真鍮、鉄などの金属や、アクリル、ナイロンを経てプラスチックや複合材料が使われるようになり、加工機も木工機や彫刻機からメカトロニクスに移り変わっていった。
何よりも大きな進化を遂げたのは、図面制作であった。製図板やドラフターを使い手で描いていた作業が、二次元CAD、三次元CADになった。これにCAMデータを合わせる事で作ったNCデータ(加工データ)があれば、世界中のどこの工場ででも全く同じものを自動で作る事が可能になったのである。
常にアンテナを張り巡らせ、新たな分野で試作の需要をキャッチする
林氏は常にあらゆる方面にアンテナを張り巡らし、どのような業界とエムトピアの試作がバランスよくマッチするのかを意識している。林氏がアンテナでキャッチし、積極的に関わろうとしているのが、自動車関連と医療関連の業界である。自動車のインテリアやエクステリア、塗装、印刷など細かな所から、車のボディデザインや電車車輛、船舶など巨大なものまで、エムトピアの試作を車輛業界で活かすためのチャレンジはもう既に始まっている。
もう一つのチャレンジである医療関連では、CTやMRIで撮影された2Dスライス画像データDICOMを3Dデータに変換して利用するサービスを展開している。実際の医療現場だけでなく、例えば画像や映像で見ている心臓の3Dデータを元に3Dプリンターで出力し、医大生の授業などで使われる事も想定している。
エムトピアのキャッチコピーである「ヨリ速く、ヨリ正確に、ヨリ麗しく」は創業時に林氏が考えたものである。この想いはやがて「デザイナーのサポーターたれ」という、よりはっきりした輪郭と焦点を絞った言葉として昇華されてきた。主役であるデザイナーを試作品でサポートする最高の「黒子」として、新たな分野での挑戦はこれからも続くのである。
取材日:2017年7月11日(火) ライター:大西 崇督
MOBIO担当者より
創業から約半世紀。当初の木工製作から考えると、現在の3Dプリント製作に至るまでに著しく技術は変化してきた。その潮流を上手く利用し、今日の発展に導かれた社長の手腕に、今更ながら感銘を覚えた。(阪上)