進化する伝統工芸は、生活に根ざした「用の美」に満ちている。
挑戦:従来の枠にとらわれず、時代のニーズに合わせた新しいデザイン・商品開発に取り組む
成果:ベテランから若手まで職人一同で数々のヒット作品を送り出す
2016年度の「大阪製ブランド」に認証された「吉祥錫 タンブラー 中 朱・黒」。
和をテーマに市松、水引、唐松などめでたい文様をデザイン。口先に角を立てることで、文様の表現が際立っている。錫を贅沢に使い、丹精込めて磨き込むことで美しくなめらかな飲み口に仕上げられている
伝統工芸は止まったら終わり。挑戦することで歴史を紡ぐ。
「現代の名工」今井達昌氏を中心に伝統工芸士が5名在籍し、錫製品を製作する職人集団、それが大阪錫器だ。同社では、多くの職人が鋳込み・ロクロ挽き・蝋付け・絵付け・鎚目打ちなど脈々と受け継がれてきた錫器製造の技術を磨き日々研鑽している。
その昔、錫は金・銀に並ぶ貴重品だったため、宮中を中心とした特権階級のみに使われていたが、江戸時代には一般の人たちにも生活用品として普及。生産地も京都から経済や物流の中心だった大阪へと移っていく。この頃、京錫の流れをくむ初代伊兵衛が大阪で創業したのが同社のルーツで、戦前の最盛期には、三津寺町界隈に30軒近くの錫屋が軒を連ねていたという。同社は昭和24年に法人化し、昭和58年には「大阪浪華錫器」として経済産業大臣より伝統工芸品として指定を受け、昭和62年に「なにわ錫器」として大阪府知事指定を受けた。
大学で金属工学を学び、この道を継いだ今井氏は従来の技を磨き伝えるのはもちろん、時代にあったものづくりや各種伝統技術の融合と発展を絶えず考案する。そんな今井氏が口癖のように語るのが「伝統工芸は止まったら終わり」だということ。生活様式の変化に合わせ進化を続けることでいつの時代にも受け入れられ、また、それを繰り返してつないでいくことが長い伝統になっていった。
同社は「KANSAIモノづくり元気企業100社」「大阪ものづくり企業優良賞」や「大阪製ブランド」にも認証され、今井氏が理事長を務める「錫器事業組合」を通じて「感動大阪大賞」(※)の記念品を寄贈するなど、行政への貢献も多大だ。
地元との関わりを「今自分たちがご飯が食べれているのは、大阪で仕事させてもらっているおかげ。それを地域に還すのは企業の当然の役割」と語る。
(※ 世界的レベルのスポーツ大会や催し等において、府民に深い感動を与え、かつ大阪府の施策に大きく貢献した方に対して贈呈される賞)
「今の暮らしに取り入れたい逸品」をつくり続けるために。
進化する伝統工芸、それを如実に示すのが見て飾って終わりの工芸品ではなく、用の美を追求し、時代に合わせた商品開発力にある。「私たちは次の時代へ伝えていくための、一つの時代を預かっている。その時代に需要がなくては駄目なんです。伝統工芸といえども、時代から必要とされなければ、存在する価値がなくなってしまいます」。そんな考えをもとに、タンブラーや酒器に新しいデザインを取り入れてきた。工法を革新し、コストも引き下げた。そうすることで生活に根ざした日用品としての美しさを持つ、今の暮らしで慈しまれる数々の逸品を生み出している。
そのひとつが大ヒットとなった「シルキータンブラー」だ。現代的なシンプルなデザインを採り入れただけでなく、内側の模様がビールの泡をキメ細かくしてくれると評判で、約4000種類もの商品の中でもロングセラーとなっている。「時代は変わる。だがブームに流されるようなものづくりはしたくない。最低10年は売れるものをつくらないと。錫が一番合うものはお酒。他には花瓶や茶壺。それに変わるものも同時に考えていく」。
仕事が人を育てる。職人は数をこなして技術を習得するもの。
「金属ぽくないのが錫の魅力。融点も低く、金属なのに手に馴染む。人の手が使うものは人の手でつくらないと」。だから人材育成にも力を注ぐ。全国の伝統工芸職人が後継者不足で悩むなか、これだけ若年層が厚い工房は珍しい。現場を担う30数名のうち、最年長の80代から50、60代と続くのだが、半数以上は女性を含む20~30代が占める。新卒者も含む若者もコンスタントに入社している。
その育成方法も昔ながらの「見て覚える」というやり方ではなく、先にしっかりと理論で教え、それぞれの工程の持つ意味を理解させる。ただいくら知識を得ても、最後は体で覚えてはじめて職人になる。だから若い職人には仕事の機会を多く与えている。最初は一週間で100個つくれるようなものから手がけさせ、次の段階では週に10個、さらに週に5個しかつくれない精巧なものへと徐々にレベルを引き上げていく。最初は数百個のうち1、2個しか検品を通らず「もう1回、溶かしてやり直し」ということもある。「技術的な裏付けを持ついいものをつくろうと思ったら、10年では話にならない」。並の水準の者が大勢いても仕方ない。大阪錫器の出荷水準でひとつの工程を任されるには、国内のトップグループに位置する力量が求められる。「そうした高いレベルの者だけで、最高のものづくりをしています」。
「人に裏切られるまで人を信用している」と経営者の目線から今井氏は語る。「人を信頼してものづくりに専念できる状態になると、すごく楽になります」。職人、問屋、百貨店の三者が信頼関係で動ける体制を整え、職人は技術を伸ばせば給料が上がり、自分がつくりたいものも提案できる。職人にとってモチベーションが上がる会社の基盤を、何年もかけて築き上げてきた。先に掲げた理想のものづくりができるのだ。そこにはものづくりへの妥協なき姿勢と、伝統工芸を進化させてきた先駆者の矜持があった。
休日はどのように過ごされていますか?
中学校のPTAソフトボール同好会に所属していて、DHで7番を打ってます。キャッチフレーズは「使い捨てライターの数ほどバットを持っている打の職人」(笑)。ゲームも好きで今は「ドラゴンクエスト11」を攻略中です。
若い職人さんによく言う言葉を教えて下さい。
人の個性はそれぞれで、技術にしても教えてすぐできる人と時間のかかる人もいますから、人に合わせて言葉をかけるようにしています。
企業概要
- 企業名
- 大阪錫器株式会社
- コア技術
- 錫の製造技術、商品開発力
- 代表者
- 代表取締役社長 今井達昌
- 住所
- 大阪市東住吉区田辺6-6-15
- 電話番号
- 06-6628-6731
- 企業紹介
- http://www.m-osaka.com/jp/takumi/3110/
- 企業HP
- http://osakasuzuki.co.jp
- 資本金
- 1000万円
- 従業員数
- 35名
認証:「大阪浪華錫器」経済産業大臣指定伝統工芸品、「なにわ錫器」大阪府知事指定伝統工芸品、大阪ものづくり企業優良賞2010、大阪製ブランド2016、「KANSAIモノづくり元気企業100社」選出