歴史ある「注染和晒」に新たな光をあてて、その価値を発信
挑戦:組合企業の技を取りまとめて商品化、外部へ発信する
成果:新たな顧客層の拡大。大阪製ブランド認定
2012年度「大阪製ブランド」のロールモデル(優秀優良製品)に認定された「手染め注染日傘」。木綿生地は泉州、生地を晒すのは堺の和晒工場、傘づくりは東大阪、染めは堺と柏原の注染工場が担当し、「大阪が持つ伝統の技」が結集した商品
恵まれた自然と地の利で、国内最大の手ぬぐいの産地に。
手をふく布としてはもちろん物を包んだり、最近ではインテリアやファッションアイテム としても使われている「手ぬぐい」。大阪は古くから手ぬぐいの産地として知られており、協同組合オリセンの福田耕一郎事務局長によると、その歴史は江戸時代まで遡るという。「堺の津久野・毛穴地域は、江戸時代は木綿の一大産地である泉州であり、石津川の水質や自然条件が木綿の晒作業に向いていました」。
天然の木綿には脂質や不純物が含まれ、そのままでは染色できない。木綿を何度も釜で煮ては乾燥させ、不純物を除いたものが和晒だ。「さらにこの地域が江戸時代から和晒の大産地であったことから、終戦後に大阪市内の注染業者が移住し、この地を全国で三本の指に入る注染手ぬぐいの産地へと成長させたのです」。また江戸時代後期には日常品としての機能性だけではなく、芸術性を重視されるようになる。「手拭い合わせ」という催しが粋な人々の間で広がり、染め物職人たちは鮮やかな染料や趣向を凝らしたデザインで腕を競い、染めの技術も発達していった。
明治時代に入ると布地の上に伊勢型紙を置き、糊置きをおこない、その上から染料を注ぎかけて染める「注染」と呼ばれる独特の技法が大阪で開発され、染め業界に大変革を起こす。その製法は読んで字のごとく、何層にも折り重ねた生地に染料を「注」いで柄を「染」めるというもの。表と裏を同時に染め、長く使いこんでも色あせしにくい注染は、糸自体を染めることで十分な通気性が保たれるのも特徴だ。
美しい注染ゆかたの誕生によって、その技法も全国区に。
さらに転機が訪れる。東京本染ゆかたに対抗し、大阪の注染手ぬぐい業者が注染によるゆかたの染色加工を企画。これが明治36年に大阪市天王寺区で開催された『第5回内国勧業博覧会』で入賞し、絶賛された。大正時代になると大阪の注染技術者は全国へと招聘され、その技術指導により各地に注染ゆかたが生産されるようになる。大阪発祥の伝統的な染色技法「注染」と、江戸時代以来300年続く和晒をはじめとする生地と染色の職人たちの組合として、協同組合オリセンが生まれたのは戦後まもなくのこと。生地や防染糊、染料が不足するなか、組合を立ち上げてGHQに直接交渉することで割り当てを確保したという。
注染ゆかたの最盛期となるのは昭和30年代だ。注染特有の染めは彩りやぼかしが美しく、ゆかたは国内で1000万反も製造されるほどの人気を博し、組合も有名女優を起用した広告などで、強力にバックアップした。残念ながら日本経済の復興に伴い和装はすたれ、ゆかたや手ぬぐいも徐々に日常生活からはなれ、夏祭りや花火大会などイベント時の使用に限定されるようになった。組合に加盟していた注染工場も、ピーク時には40社を数えたが、現在は10社ほどに減ってしまった。
現代にマッチしたデザインで、伝統工芸に新たな価値を創出。
しかしそんな逆境にあっても、「注染や和晒の良さをアピールし、普及させる」という組合のスピリッツは変わらなかった。手に触れる機会が減ったのなら、これまでと違う視点からそういった機会を増やせばいい。まずは若い世代に注染の良さを知ってもらおうと、2009年手ぬぐいをメインに古典柄を「オリセン」ブランドで発売。学生や若手デザイナーとコラボした「堺一心染め」を立ち上げるなど、伝統技法を伝える活動をはじめた。さらに2012年に発表した「手染め注染日傘」は、生地・染め・傘の張り付けまですべてを大阪府内で対応する大阪製であり、その年度の「大阪製ブランド」ロールモデル(優秀優良製品)に認定された。これは組合に加入している企業の代表が集まり、アイデアを出し合って企画したもの。日傘は太陽光に長時間さらされるため、通常の染料では数年で退色してしまう。それを解決するために、スレンという日光堅牢度に優れた染料に着目。スレンは温度管理が大変で配合も難しく手間もかかるため、最近ではあまり使われなくなっていたものだ。スレンで染めた生地は耐久性に優れているだけでなく、紫外線を加工なしで80%以上カットでき、風が通って涼しさを感じることもできる。また、日傘で使われている紫色は、スレンでしか表現できない色合い。この日傘は、組合の顔のひとつとなり、若い世代に注染という技術があることをPRするためのものとなった。
「大阪製ブランド」認定後、阪神百貨店の催事で展示した際には、色鮮やかな日傘に魅かれ、製品を手に取る人が多かったという。また2016年にMOBIOで開催された「大阪製ブランド」企画展およびMeetingにも出展し、集まった来場者にその魅力を発信した。「この日傘で注染の新たな可能性が広がったと思います」。
今も多くの人の心を惹きつける、注染和晒の魅力。
福田氏には「職人の技を残していきたい」という思いもある。「卓越した注染の職人は、糊で囲う土手を幅5mm✕高さ1.5cmという極めて細く、均一につくることができます」。大阪の伝統工芸品としてすでに指定を受けていた「浪華本染めゆかた」に加えて、2016年には伝統的技術などが同じである「浪華本染め手拭い」も大阪の伝統工芸品として指定された。またこれまでの地道な努力が実を結び、外国人や国内の若い世代から手ぬぐいが新鮮なものとして受け止められ、新たな顧客層も獲得しつつある。そういった流れに触発されてか、今年8月には堺の若手組合員が自主的に『手ぬぐいフェス 堺でアロハ』も開催した。これからは大阪だけでなく、関東や浜松の組合と共同で活動していこうと、最近では「日本注染和晒振興会」も設立。今後は共同でイベントの開催、例えば、デザイン・美術専門の高校を対象に注染の実演や、若い世代に技術を広める体験学習など協力して、注染和晒の魅力を発信していくという。
「いちばん幸せ」と感じられるのはどんな時ですか?
40年以上連れ添った妻と、京都や奈良などにちょっとした旅行するときですね、たまにラーメン店巡りもします。
お仕事をされるうえで、大切にされていることは何でしょう?
組合員の皆さんが組合の事務局に期待することは、各社の注染や和晒といった事業内容をひろく知っていただくこと、そのために安定した組合運営を行うことです。そうした意味で、バランス感覚が大事だと思っています。
企業概要
- 企業名
- 協同組合オリセン
- コア技術
- 大阪発祥の注染の「差し分け」「ぼかし」「細川」の染色技法、300年続く「さかいの和晒」
- 代表者
- 理事長 小松 隆雄
- 住所
- 大阪市中央区久太郎町1-8-15 浪華ビル
- 電話番号
- 06-6261-0468
- 企業HP
- http://www.osaka-orisen.com/
- 資本金
- 56万円
- 従業員数
- 2名(事務局員)
認証:大阪製ブランド2012