次世代プリント基板で、新分野へと勝負をかける。
挑戦:MOBIOのネットワーク活用
成果:医療機器・ヘルスケア産業分野に挑戦
メッキ加工からスタートし、現在は特殊なプリント基板製造で躍進する株式会社サトーセン。海外との直接取引実績を持ち、次世代プリント基板の開発にも余念がない同社が次に目指すのは、医療機器・ヘルスケア産業分野だ。
ものづくり企業が海外と直接取引できる、その理由とは。
プリント基板とは、多くの電子機器に使用される主要部品の一つで、さまざまな電子部品で回路を作成する際にその部分同士を固定して配線するための部品の総称。私たちの日常に欠かせないものとなったスマートフォンをはじめ、多くの電子機器に組み込まれている。
そんなプリント基板を専門に製造する株式会社サトーセンは、この規模のメーカーとしては珍しく、ASEAN、北米、ヨーロッパなどを主戦場として海外大手の非日系企業と商社を通じて取引を行っている。昔から顧客の要求に応える形で小ロット多品種を得意とし、ここ数年は小さいもの、薄いもの、高放熱といったより難易度の高いものを手がけている。「身近なヒット商品としては有名メーカーのスマートフォンのフラッシュの部分に入る、5mm四方の紙のようなLED基板。これに関しては世界で8割のシェアを持っています」。そう語るのは、代表取締役社長の宮原慶太氏。銀行員から転身して昨年社長に就任、同社を率いている。
スマートフォンのLEDは遠くまで光を届けるために明るさが求められ、輝度を上げていく過程で電流が流れ、それが熱となる。この熱が出るとLEDは暗くなるため、いかに熱を逃すか。さらに小さい基板に放熱構造を載せていくのがまた難しい。「技術的にこの課題をクリアできる会社はあっても、工場で何ヶ月も製造していくというのは、全然レベルが違う話。歩留まりを9割以上確保しながら、同じ品質のものを何千万枚とつくるという製造ノウハウがあってこそ可能なんです」(宮原氏)
現在は非常に好調な業績を重ねる同社だが、実は2012年に民事再生を申請。しかし計画を2年間で完了させ、以降4期連続黒字で順調に業績を伸ばしている。その原動力となったのが先にあげたスマートフォンのLED基板だ。これはロット数の大きな製品だが、同社の基本はあくまでも「小ロット多品種」だという。「当社の会長がよく口にするのが“ねちゃこく”という言葉。たとえ受注数が100枚であっても、ひとつひとつ顧客のニーズを、しつこく粘り強く拾ってお応えしてきた。そもそも難易度が高いから当社に依頼があるわけで。それに対して丁寧に応えてきたから、海外の大口ユーザーにつながった。これは日本で鍛えられた技術を海外にフィードバックできている好例だと思います」(宮原氏)
従来の考え方から脱却しないと、ブレークスルーはない。
今年1月に東京ビッグサイトで開催された『ウェアラブルEXPO』では、出品した新製品が大きな反響を呼んだ。特に注目を浴びたのが「ナノボンドα」と「ストレッチャブルPCB」だ。ナノボンドαは、回路を直接対象物に描けるというもの。これまでのようにエッチングという複雑な工程をたどることなく、たとえばメッキしにくいペットフィルムなどにも、やすやすと回路を描くことも可能だ。もうひとつのストレッチャブルPCBは、伸び縮みできる基板。薄いウレタンに描かれた基板をさらに伸ばしても電気を通す。ともに基板の可能性を大きく広げるものだ。
開発にあたったのは、要素技術開発部門の森久雄氏。「どんなに薄く小さいものがつくれても、在来型をアレンジしたものにすぎない。これからの技術に使ってもらうことを考えるなら、今までの発想から脱却し、電子回路自体の常識をくつがえすものをつくらないと」。ストレッチャブル基板は真空で成形すると立体物にもできるため,生体への親和性が高い。「たとえば最近では車のステアリングにヒーターが組み込まれていますが、これを使えばより手になじみやすいものが実現できます」(宮原氏)。服にも布にも貼れるので火を使用できないような過酷なアウドドアシーンや、温度が上昇する機能を利用すればスポーツ関係でも応用できそうだ。また介護の世界でも、床ずれ対策のためにベッドに忍ばせる圧力センサーという使い方もありうる。「夢はいろいろ尽きませんが、それを形にしていくのが今年。用途開発を一緒におこなえるパートナー企業を見つけて、この製品が使われたというトラックレコードを今年はつくりたい」(宮原氏)
これまでもマンモグラフィーにも使われていたり、医療機器に使われていると知らずに製造していたことも多々ある。そんな受け身だった医療分野への接触から転換し、ナノボンドαやストレッチャブルPCBに関しては、医療分野での使用も視野に入れて展示会に出展している。もちろん新分野進出やネットワークづくりにもぬかりがない。『日本の技術をいのちのために委員会』の協力のもとに昨年から運営されている、MOBIOの健康・医療研究会にも参画。「こちらを通じていろんな情報が入ってきます。国の政策、現場の臨床工学技師の目の前の課題も見えますし、先日は病院の中も内覧させていただいたり。自分たちの技術を何と組み合わせれば道が開けるか、おぼろげながら見えてきました」(森氏)。「医療は非常に大きな責任をともないます。ですから治療そのものというより周辺環境を支えるようなもの、医師の負担を減らすものであったりヘルスケアや介護から参入していきたいと考えています」(宮原氏)
夢はでっかく、技術的にワールドクラスのものにしていきたい。
宮原氏は銀行員時代の大半を東京で過ごした。数年前に大阪に戻ってから同社のように市内にものづくりの会社があって、まだまだやれるんだということにまず驚いた。しかも新しい分野に挑戦しているところに共感した。「私自身、銀行員時代にはベンチャーキャピタルに在籍した時期もありました。ITバブルの頃だったのもあり、若い人が新しい技術にチャレンジしていく姿を目の当たりにして、自分もこんなことをしてみたいという思いもありました」。ものづくりへのリスペクトを持ち、異業種から転身したがゆえの冷静な視点を持つ宮原氏は、この会社を新しいステージに連れていこうとしている。
現在、プリント基板の国内市場は縮小しているが、逆に海外では拡大している。同社でも社内シェアの比率は6~7割が海外だ。今後の戦略として医療分野に限らず、海外の企業とパートナーシップを持ち、試作して逆輸入するのが、同社の「勝利の方程式」になるかも、と語る。さらに次のステップとして、プリント基板メーカーがタッグを組んで、海外へ進出する仕組みづくりも考えている「私たちクラスの規模だと単独では無理ですが、みんなと一緒なら進出できるかもしれない。そんなことをJPCA(一般社団法人日本電子回路工業会)の代表にも提案できないかと思っている」(宮原氏)。それに連動するように、銀行員時代の同僚でリサーチ&コンサルタントとして国際関係に関わっていた知人に顧問として関与してもらい、国内でのイベントや海外での商談会などをおこなってもらうことも画策している。「日本の基板業界は、試作専門、中生産、大量生産など、それぞれ特徴があり、組み合わせればどんなものでもつくれます。それらを横断的に量産できる当社がその窓口になれれば」。これを実現して勇気を与えるような会社にしたい、と宮原氏の口調は熱い。「自社の理念や存在意義を追求し、“これはサトーセンの技があるからできた製品だ”と言われたいですね」
仕事は大変お忙しいと思いますが、どうやってリフレッシュされていますか?
車の運転と最近は温泉が好きなので、両方楽しめる温泉へのドライブですね。山道を通り信号をあまり使わないで行けるルートでドライブを満喫し、温泉にゆっくり浸る頃にはリフレッシュできます。
最近嬉しかったことは何でしょうか?
最近ようやく余裕が出てきて仕事を通じて現場からいい報告が上がってくると、単純に嬉しいです。それと代表になって半年で、土日の過ごし方が変わりました。「戦略的に来週はどう動こうとか」と考えるのがとても楽しい。いい意味で人が変わった感じです。
企業概要
- 企業名
- 株式会社サトーセン
- コア技術
- 薄もの・高多層・高放熱プリント基板設計・製造
- 代表者
- 代表取締役 宮原慶太
- 住所
- 大阪市西成区津守3-7-27
- 電話番号
- 06-6657-0777
- 企業紹介
- http://www.m-osaka.com/jp/exhibitors/411/
- 企業HP
- http://www.satosen.co.jp
- 資本金
- 9954万円
- 従業員数
- 180名
認証:ISO9001認証取得、ISO14001認証取得