誰もがものづくりに夢中になれる、きっかけとしての「金具」
挑戦:自社製品の開発・販売
成果:販路開拓、知財活用、ネットワークづくりに成功
このキャビネットも1✕4材(90cm✕12枚)を、デザイン金具を留めるだけでつくられている。凹穴に合わせてネジで止めるだけで、きれいに仕上がる。正面の扉部分は浴衣の柄を模したアイアンワークス
装飾性と実用・耐久性を兼ね揃え、DIYを手軽に見栄え良く。
最近は女性にも人気の高いDIYだが、いざ家具づくりなどに挑戦しようとすると意外とハードルが高かったりするのも事実。しかし「workshop ひとつ屋」の装飾金具を使えば、積み木を積むような感覚で手軽につくれる。しかもリーズナブルに。鉄加工を手がける谷口商店から生まれたこのブランドは、これまでの加工技術とノウハウを活かした、美しいアイアンワークスが魅力だ。特に注目したいのが、DIYで人気の高い規格材1✕4(ワンバイフォー)に特化した金具。1✕4材の幅に合わせて金具に穴が開けられており、ネジで留めるだけでバラけたり凸凹することなく、きれいに連結させることができる。ドライバーだけで簡単につくれ、なおかつデザイン性も高い。昔から伝わる飾り金物としての「装飾性」と、補助金具としての「実用・耐久性」を兼ね揃えた、まったく新しいDIY用金具なのだ。
ブランドは2016年の『大阪勧業展2016』でお披露目。この金具以外にも奈良・平安時代に装飾文様として用いられた宝相華という架空の花をモチーフにしたものや、繊細な文様を描く鉄にビンテージ加工を施した背や脚で組まれた椅子もある。これらのアイアンワークスは、どれも鉄とは思えない優雅さをまとっている。
企画からデザイン・設計まで手がけるのは谷口芳國取締役。「展示会ではおおいに手応えを感じました。ものづくりをする仲間と出会え、ビッグサイトでの『リフォーム産業フェア』に共同出展をしましたし、アドバイスももらったり」。その助言のひとつが海外への販路開拓。たしかにどのアイテムからもオリエンタルな香りがするし、鉄と東洋的なモチーフの組み合わせも新鮮だ。しかし谷口氏はブランドを立ち上げたばかり。国内において特許を出願していたが、知的財産の活用について方針を決めあぐねていた。そこで、展示会で知り合ったMOBIOの知財サポートチームの知財支援アドバイザーに相談を行った。その結果、まずは国内で商標出願を行い、ブランド戦略を行うことで足場を固めるとともに、知的財産権を活用して海外展開についても検討を行っていく、という方針が決まった。
工程を簡単にすることで、ものづくりの楽しさや醍醐味を伝えたい。
実は「鉄より木によるものづくりが好き」だという谷口氏。高校も木材工芸の勉強がしたくて大阪市立工芸高校へ進み、卒業後は出版社で編集やデザインに携わっていた。2011年の父の逝去がきっかけとなり、兄が社長を務める家業を手伝うことになった。工場に行けば昔から慣れ親しんだ風景が目に飛び込み、創作心をくすぐる。「気がついたら、鉄で何かつくれないかなと考えていました」。暇な時間を見つけてはつくった試作品を事務所に置いていると、訪れる人がみな褒めてくれた。それが先の展示会への挑戦につながった。
ちなみに商品に草花のモチーフが多いのは、学生時代に染色の魅力に触れたからだという。CADで描いた染物の型紙のデータは、鉄のレーザー加工にも流用できる。ものづくり企業にとって難関のひとつであるクリエイターとのつながりも、谷口氏自身がデザインを手がけるクリエイターであり、周囲に多くの仲間を持っているという強みがある。「この商品を企画したいちばんの目的は“つくることを楽しみましょう”ということ」。もともと出版社にいた谷口氏、入社してすぐに本のデジタル化が一気に進んだ。これからはペーパーレスの時代、そんな気配が濃厚だった。その頃、先輩に言われた言葉が今も胸に刻まれている。
「今後はデータで情報を得るだけの行為と、紙の本を楽しむ行為に分かれていく。だから決して本を読むことの豊かさが失われるわけではない」。それと同じで「棚をつくること=棚が欲しい」という問題ではない。形を想像して素材を選び、自分で設計図をつくって手を動かす。そこには他には変えられない豊かさがある。だからブランド名にも「一つひとつを丁寧に、積みあげるように」との意味が込められている。
アイアンワークスと染織を調和させた、新しいものづくりを。
谷口商店は昭和34年に創業し、造船所跡地のナニワ企業団地に移ってからも鉄の加工販売一筋でやってきた。新たにブランドを立ち上げたのは、景気に左右されるBtoB中心の経営に、自社で提案できるBtoCを増やしたいとの思惑もあった。工場では曲げ、孔あけ加工、塗装の下地をし、またシャーリングだけでつくれる製品は自社生産を予定している。装飾金具は展示会に出すとともに量産体制を整え、WEBも新設した。
展示会をきっかけに、多くの販売先から声がかかったが、丁寧につくったものを、同じような想いで販売してくれるところを探した。
今後はワークショップ付きのホームセンターでの販売を予定している。さらに実際にワークショップで家具がつくれる場所として、昨年阿倍野駅近くに「workshop ひとつ屋 + Cafe」もオープンさせた。ここは、日本の自然から生まれた色や形を大切にしながら、天然染料による染織を中心にさまざまなアイテムを“一つひとつ手づくりする工房&ショップ”と位置づけている。
会社があるのは大阪でも有数の古い歴史を持つ玉出。ここは江戸時代から戦前にかけて絹のように柔らかく、とても高級な木綿、勝間木綿(こつまもめん)と呼ばれる木綿の一大産地だったという。現在その品種は失われ“幻の木綿”となってしまった。今後の夢として「繊維の町の基礎をつくった綿を使い、染織品と大阪を意識した金具をつくりたい」と考えている。また新たな大阪の名品が生まれる、そんな予感がする。
好きな言葉を教えて下さい。
「為せば成る為さねば成らぬ何事も」という言葉がありますが、これには続きがあって「成らぬは人の為さぬなりけり」。こちらが好きです。なにごとも途中でやめなければ、なんとかなるという意味で、忙しくても努力をしようかなと言う気になります。
プライベートでの新しいチャレンジはありますか?
知り合いが京都・美山の放耕地で「日本茜」の栽培にしているので、それに参加させてもらうつもりです。挑戦しています。大阪は綿の産地でもあったので、いつか養蚕にも挑戦して、そこで紡いだ生地と鉄を組み合わせたものづくりもやってみたいです。
企業概要
- 企業名
- 株式会社谷口商店
- コア技術
- シャーリング、曲げ加工 板金(鋼板)の寸法切りや各種の穴あけ加工
- 代表者
- 代表取締役 谷口巖
- 住所
- 大阪市西成区南津守5-7-21
- 電話番号
- 06-6659-2870
- 企業HP
- https://tanishou.co.jp/
- 資本金
- 800万円
- 従業員数
- 9名