ものづくり中小企業の変革と挑戦を支援しているMOBIOでは、MOBIO 常設展示場出展企業様・インキュベートルームの入居企業様の「 変革と挑戦 」について、取り組みのきっかけ(背景)、 具体的な内容などをインタビューしご紹介していきます。ここにはヒントが沢山詰まっているはずです。 じっくりお読みください!
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ねじメーカーとして事業を一新。
自社ブランド品、ばね付きゆるみ止めナット『E-LOCK』を開発
大阪フォーミング株式会社 代表取締役社長 奥野芳昭 氏
会社名 | 大阪フォーミング株式会社 |
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住所 | 岸和田市河合町894-2 |
電話番号 | 072-446-3034 |
企業HP | https://www.forming.co.jp/ |
代表者名 | 代表取締役社長 奥野芳昭 氏 |
設立 | 1971年 |
事業内容 | ①弊社ブランド品の製造・販売 ②特殊圧造品(ナット・パーツ等)の開発・試作・製造 ③ねじ工場向けソフトウェアの開発・販売 ④コンピュータ・ネットワークのメンテナンス |
従業員たちのために夢のある事業を創りたい
金属加工業界においてフォーミングとは曲げ加工を指す。設立当初、ばね製造やコイリング、フォーミングを主体に事業を行っていた大阪フォーミング株式会社は、ある時期1980年代前半から当時加工が困難だと言われていたステンレス材に着目し、圧造工場を整備してステンレス製のナットの生産を始めた。
代表取締役社長の奥野芳昭氏は同社の2代目。入社してから製造業を取り巻く環境の変化と、それに伴う売上高の減少を見続けてきた。また、一社の下請けとして売上を得ている収益構造にも危機感を募らせていた。そんな奥野氏が2008年のリーマンショックを機に「これまでやってきたことをすべてやめる」と決意する。偏った収益構造を抜け出し、設備も組織も一新し、ねじメーカーとして再出発すると決めたのだ。
「3年間頑張ってみよう。それでだめならやめる!」と奮い立たせ、新創業と言っても過言ではない大阪フォーミングをスタートさせた。
奥野氏が思ったのは「夢のある事業を創る」こと。組織の再生に伴い、従業員も若い世代へと移っていく。
「今を生き抜く為に仕事をするのではない。未来を切り開くために仕事をする。新たに若い人材を雇用すると言うことは、その彼らの人生を預かることにもなる。だから夢と楽しさを分かち合えるものでなくてはならない」。その考えは今も奥野氏の経営の根幹を成している。
そんな思いが製品として結実したのが自社ブランドのゆるみ止めナット『E-LOCK』だ。ねじの上部に高さの違う3枚の板バネをつけることでゆるみ止めの機能を向上させた。「ねじはもともとゆるむもの。でも、日本は災害が多い国ですから、より高度な安全性を求めるんです」。同社は他メーカーの下請けとしてさまざまなゆるみ止めナットを30年以上製造し、利点も改善点も知り尽くしている。しかも前身はばね製造会社だ。E-LCCKはそんな同社だからこそ生まれた製品と言える。
自社ブランドの認知度を上げていくためのさまざまな取り組みとは
E-LOCK は2015年に特許を取得し、同社にとって唯一無二のブランド品となった。現在、E-LOCK は、締結部品として、産業機器部品、電化製品、高層建築物、高速道路、橋梁、新幹線、さらにはリニアモーターカーなど、振動が発生し、ゆるむ可能性のあるところへと用途を広げている。
今でこそ認知度を高めたE-LOCKだが、当初は販売に苦労したという。「最初は全然売れなかったんです。販売を扱ってくれる商社からは″実績があれば、置いてやる“と言われ、使ってもらわなければ実績は出ないのに・・・とジレンマがありました」と振り返る。「ゆるみ止めナットとしてE-LOCKは後発品。他社と同じことをしていても売れない」と、奥野氏はさまざまな取り組みを仕掛けていった。
ひとつは商品群の充実。形状、サイズを増やし、先発メーカーと同じレベルまで商品ラインナップを充実させた。「売れるかどうかわからないものを揃えるのはコストがかかるんですが、″うちに来ればありとあらゆるものが揃っていますよ“とカタログで見せられるのは強みになりました」。ふたつめはメディアの活用と展示会への出展。業界誌や工業新聞等や展示会への出展で積極的に製品情報を発信し、商社や販売店を経由せずとも直接メーカーにPRできる方法をとった。そしてアワードへの参加。経済産業省や国土交通省などの国が関与するものづくり系の賞に応募して数々の賞を獲得。その実績は製品の信頼度を確実に高めていった。
こうしてE-LOCKの認知度が定着したころ、他メーカー(ゆるめ止めナットメーカー)とコラボした『SMART NUT』、E-LOCK のコストダウン版として開発した『TRES LOCK』が生まれる。これらはゆるみ止めナット3兄弟として、今、同社のブランドを引っ張っている。
世間や市場に求められてこそ開発意義がある
奥野氏が大切にしているのは開発方針だ。「開発を自己満足で終わらせないこと。自分たちがどんなに良いものが出来た!と自己評価しても、世間や市場が必要としなければ意味がないからです」。そのために行っているのは情報収集。世の中が今、何に困っていて、何を必要としているのか、展示会や営業活動を通じてお客様の声を集めていく。自分たちが開発しようとするものが、複数のお客様から「″それ、ええなあ“と、製品を評価してくださって初めて本格的に開発に着手します」。
また、品質保証にも力を入れている。「当社では外観が図面通りに仕上がっているか、製品が持つべき性能は確かか、その両面から品質保証の実現を目指しています」と奥野氏。そのため、性能を検証するための試験機などの設備を数多く導入し、画像検査機による全数検査を経て出荷している。「これはお客様に不良品を与えないという点はもちろんですが、うちの品質管理の手法の妥当性を検証するためでもあるんです」と話す。製品に不具合が出たらすぐに現場にフィードバックし、それが人的ミスによるものなのか、品質管理の手法そのものに問題があるのかを検証し、品質を保証するための仕組みの見直しと改善を現在も積み重ねている。
小さな頃からねじの製造現場を見て育った奥野氏。「結局、ねじが好きだからこの仕事を続けているんです。この仕事をやめるのは、その情熱がなくなった時でしょうね」。小学生の頃の作文に″親のあとをついで製造業をやる“と書いた2代目が次に打ち出す渾身の一手はなんだろうか。
2024年6月21日(金)ライター 荒木さと子
MOBIO担当者より
ばね製造からSUS製ナット製造へと大転換、さらにはそれらを融合したゆるみ止めナット「E-LOCK」の開発・誕生、認知度UPの経緯について、その時その時の一方ならぬご苦労をお聞きした。
しかし、「ねじが大好き。面白い」とお話されたお言葉どおり、今後も様々な用途に適し、バリエーションに富んだナットの開発生産に、全社一丸となって取り組み、“締結”されるであろう姿がハッキリうかがえた貴重な時間でした。
MOBIO 村井