ものづくり中小企業の変革と挑戦を支援しているMOBIOでは、MOBIO 常設展示場出展企業様・インキュベートルームの入居企業様の「 変革と挑戦 」について、取り組みのきっかけ(背景)、 具体的な内容などをインタビューしご紹介していきます。ここにはヒントが沢山詰まっているはずです。 じっくりお読みください!
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オーダーメイド刃物でお客様と進化していく
工業用刃物メーカー
神谷機工株式会社 代表取締役社長 神谷 宗孝 氏
会社名 | 神谷機工株式会社 |
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住所 | 大阪市平野区西4‐10‐23 |
電話番号 | 06-6702-3022 |
企業HP | https://kamiya-saw.co.jp |
代表者名 | 代表取締役社長 神谷 宗孝 氏 |
設立 | 1953年 |
事業内容 | 工業用機械刃物・特殊切削工具の製造販売 |
お客様と共同開発特許も!“刃物コンサルタント”という存在
神谷機工株式会社の会社案内には、“次は何を切りましょうか?”というキャッチフレーズが書かれている。その言葉に見るように、同社はこれまで住宅、自動車、鉄鋼、そして半導体・電子部品から食品に至るまで、創業から70年以上、世の中を支えるありとあらゆる産業分野で「切る」「削る」に特化した工業用機械刃物、特殊切削工具を作り続けてきた会社である。
「ウチの強みはオーダーメイド製作なんです」と話すのは代表取締役社長の神谷氏。「切れ味(品質)なのか、長持ちすること(寿命)なのか、メンテナンスのしやすさなのか。それぞれのお客様に合わせて重視するものをお伺いしながら、最適な刃物をオーダーメイドでつくります」。つまり、お客様の数だけ刃物や切削工具が生まれる。お客様の現場を訪問し、使用条件と使用環境をつぶさにヒアリング・調査してから最適解を提案する。
そんな職務を担うのが同社の刃物コンサルタント。神谷機工のベテラン営業職の名称である。刃物コンサルタントは問い合わせがあればまず加工現場に出向き、切断切削する材料、加工機の特徴、工場の環境などを自ら確認することを重要視している。「“刃物一本持って来てくれ”という注文に応えるだけの営業マンではありません。先方の言葉の奥にあるニーズを見抜き、刃物を通してお客様の経営環境を改善していくのが我々の仕事だと思っています」と神谷氏。
近年、半導体・電子部品、先端車載部品など、切る・削る対象がますます精密化して多様化していく中、ユーザーたちの要求に応えるモノを作るにはよりユーザーとの密なコミュニケーションが必要となってくる。そのコミュニケーションから世にはない刃物、切削工具を生み出し特許開発に至るケースもある。神谷機工の刃物コンサルタントという存在はただの営業マンにとどまらず開発設計にまで力を発揮する存在だ。
社長になるまでがいちばん大変だった。
事業承継者の葛藤と挫折を乗り越えた今
神谷氏が代表取締役社長に就任したのは2022年、ちょうど創業70年目。
“社長として苦労したことは何ですか?”という問いには、少し考えた後、「社長になるまでがいちばん苦労しましたね」と答える。神谷氏は祖父、父に続く3代目。同社に入ったのはドイツから帰国後の24歳だったが、入社直後から「この会社は自分が変えていく!」という熱い想いを持っていた。
神谷氏は入社前の2年間、ドイツのある工作機械メーカーで研修生として働いた。2000人いる現地ドイツ人社員の中で日本人はただひとり。3か月でドイツ語を習得し、研修生では任せてもらえないような仕事も交渉して挑戦した。そんな神谷氏が帰国して家業に戻る。「自分の家業に入ったのは感謝、恩返しの気持ちからです」「ただ自分が会社を変えていくんだ!という熱い気持ちが空回り。ドイツ流のやり方で臆せず意見や考えをぶつけますから、上の世代とガンガン衝突しました」と振り返る。「何も知らん若造が何を言うんや!と頭ごなしに否定され、それでもぶつかっていく。その繰り返しの中で精神も身体もボロボロになっていきました」。
あることがきっかけで前を向くようになり、「どうせ死ぬなら命を捨てたつもりで自分を磨く為に時間とお金を使おう!」「会社での挑戦もやり方を変えて継続した上で、会社からいつ出ても社会で必要とされる人間として成長し続けようと、心理学・コーチング、、、外へ出て大いに学び、今で言うパラレルキャリアとして仕事以外の時間に、NPO活動、学校訪問授業、農やミュージカル、政治の世界まで色んな世界を体験しました」。今になってそれらの経験が、会社経営していく上で大きく生きていると感じている。「人に反対されても止められない、自分の内から湧き出る行動。刃物もそうですが人間も自分より優れた相手に磨かれてこそ輝く。不器用だったと思いますが、何度も何度もぶつかり挑んだ経験が自分を鍛えてくれ、社長としての今がある」と。
神谷氏が社長となって立ち上げた“100年企業プロジェクト”。「私は創業70年目で社長を引き継ぎましたが、100年目の時に次世代に事業承継していると決めています。目先のことばかりに捉われず、次の世代、100年先も必要とされる会社でいるために今どうすれば良いのか?」という問いを経営の柱として置き、自分自身を戒めている。
刃物も多様性の時代へ。そんな時代だからこそ生きるオーダーメイド製作!
工業用刃物の業界も、大量生産の時代から多様性の時代に入ってきた。同社の顧客も住宅用建材や自動車部品向けがシェアの多くを占めてきたが、近年は半導体・電子部品向け含めた多様な産業分野の新素材向けオーダーメイド製作の割合が増えている。「刃物に求められる公差が100分の1ミリから1000分の1ミリの世界になってきたんです」と神谷氏。時代と共に変化し進化しているのが、同社の一番の強みかもしれない。
“曲がる超硬極薄刃”同社が誇る技術の代表例の一つだが、超硬素材の刃物、300㎜の長さで0.1㎜厚、400㎜以上だと0.2㎜厚、鋼より硬い超硬が手で簡単に曲げられるほど薄く製作できるという世界でも稀有な技術を持っている。そういった技術を支えるのが機械と人の手の融合だと工場見学をさせてもらって気づく。「高精度な最先端設備と人の経験の中に蓄えられてきた感覚センスの両輪で品質向上を図っています」。また、つくって終わりではなく、自分たちのつくった製品に最後まで責任を持つために、再研磨・再コーティングによる刃物の再生技術の向上にも取り組んでいる。
今年からの3年間を、100年先も必要とされる企業でいるための土台づくりと位置づけ、「安全で、効率的で、快適な職場づくり」を行動指針としてシンプルに作り直した。5S活動委員会、品質向上委員会も会社一丸で取り組んでおり、給与や評価制度の見直しも行っている。さらに、半導体・電子部品向けの超高精度なオーダーメイド切削工具のため、耐震性能から精度を出せる新工場を建設、2025年4月稼働を目指し、当たり前のアップデートを常に行っている企業だ。
そして、経営者の決意として「弊社の会社理念が“成功とは当たり前のことを永遠に繰り返すこと”なのですが、当たり前は時代や場所、人によって変化します。ユーザーの現場を観察し対話があってこそ我々が提供すべき付加価値が見えてくると考えています。現場をしっかり視ることをいつまでも大切にし、社会のお役に立てる会社でいれるよう、当たり前のことに向き合い続けていきたいと思います」と締めくくった。
2024年4月4日(木)ライター 荒木さと子
MOBIO担当者より
「個別最適」という言葉が印象的だったインタビュー。薄く、強く、鋭い切れ味の刃物が必要になっている市場に対して、「最適解」を開発・製造できるのは「刃物のコンサルタント」を始めとする企業ワンチームの力という。海外勤務経験を基にして、半導体向け新工場の稼働を始め、変革のスピードを止めないという強い思いをお聞きしました。
MOBIO 兒玉