ものづくり中小企業の変革と挑戦を支援しているMOBIOでは、MOBIO 常設展示場出展企業およびインキュベートルームの入居企業の「 変革と挑戦 」について、取り組みのきっかけ(背景)、 具体的な内容などをインタビューしご紹介していきます。ここにはヒントが沢山詰まっているはずです。 じっくりお読みください!
※出展終了およびインキュベートルームから退居した企業の記事は掲載しておりません。
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利益は追うものではなく、付いてくるもの
フクダ精工株式会社 代表取締役社長 岩崎 秀明 氏
会社名 | フクダ精工株式会社 |
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住所 | 大阪府東大阪市四条町12-36 |
電話番号 | 072-984-6741 |
企業HP | http://fukudaseiko.co.jp/ |
代表者名 | 代表取締役社長 岩崎 秀明 氏 |
設立 | 1935年 |
事業内容 | F.K.D.ブランドの切削工具を製造・販売 |
ハイスなど特殊鋼を素材にした切削加工。ニッチな技術がオンリーワンに
フクダ精工は、エンドミルからカッター類など、求められる性能に応える切削工具などを製造、販売している。中でも高硬度、耐摩耗性、高靭性だけでなく、再研磨が行えるハイス鋼を素材とした切削工具は、約1万アイテムの標準規格品を取り揃えている。フクダ精工株式会社の代表取締役である岩崎秀明氏は言う。「硬度や精度を競う新素材がどんどん生まれる中で、弊社の製品は一昔前のカッターと見る向きもあります。しかしその一方で『業界紙』のユーザーランキングでは、サイドカッター部門のランキング1位をいただいたように評価してくれる所もあります。特にハイス鋼は高硬度、耐摩耗性、高靭性に優れた素材ですが、再研磨も容易という特性を併せ持っています。SDGsにもしっかり対応した素材という点から再評価をいただいています」。
そんなフクダ精工の創業は1935年。もうすぐ90年を迎える老舗企業だ。社長も岩崎氏で3代目。生き延びてきた理由は「ブレない」ことだと岩崎氏は言う。「お客さまの信頼と自分たちの技術を信じて製品を作り込んでいく。展示会などに出展すると『まだ、こんな技術があったんだ』と改めて驚かれる一流メーカーの方もいました。しかしここまでくるには山あり谷ありの連続でした」。
会社の問題は経営だけではなく、社員の意識の問題だった
岩崎氏は、もともとは商社に勤めていた。仕入先としてフクダ精工と出会い、その製品を世界に広めた。「当時のフクダ精工の製品を一番買っていたのは私ではないでしょうか?世界中に売りました。その手腕が認められたのか、先代の社長からウチへ来ないかと誘われたのです。そしてバブル崩壊後、みんなでなんとか乗り切らなければという時に『後はお前しかいないので頼む』とバトンを渡され社長を引き継ぎました」。
社長に就任した岩崎氏が最も苦労したのは社員の意識改革だった。「職人はいい物を作ればいいと思っています。営業は売ればいいと思っています。ある商品の受注があったとしてその数が10個としましょう。営業は職人に100個ほど造っておいてと指示するんです。言われた職人は造ります。しかし『後の90個はどうすんねん』って聞くと、『いずれ売れるでしょう』と答える。一事が万事そんな調子。組織とはチームプレーです。相手を想うところから連携は生まれます。技術に特化するあまり、その意識がなかったのです。つまり会社の問題は経営ではなく、みんなの意識の問題だと気づいたのです」と岩崎氏は当時を振り返える。そして取り組んだのが意識改革だった。
言葉のチカラを最大限に活用する
岩崎氏は会社の強みも弱みも洗いだし、それを社員に伝えることから始めた。理念を整え、フクダ精工にとって製品と商品の違いは何かも明確にしていった。「人はいるけれど、組織としての土台はない。企業づくりを1から始めたようなものです。心がけたのはオープンにすること。良いことも悪いことも共有する。隠し事のあるところに信頼は生まれません。経営の苦しいことも知らせました。次は言葉です。経営理念だけでなく、基本理念、社是、モットー、社内教育理念、さらには毎年のテーマとなるキーワードを掲げたり、人としての躾の基本も整えました。オフィスや食堂にプリントアウトして張り出しています。厳しい状況を乗り越えていっしょに進んでいく社員には、しあわせになってほしいんです。しあわせになるために働いていきたい。そのための意識、心構えを醸成するのは言葉からです。もうどんどん張り出してきました」と岩崎氏は笑顔で言った。
鏡は先に笑わない。なにごとも自分から取り組む
厳しい時代を乗り切るためには社員のモチベーションが重要だ。岩崎氏もその点を一番真剣に考えた。「言葉は意識を動かしますが、言うだけでは誰も動きません。『鏡は先に笑わない』という名言がありますが、なるほどと思いました。私から行動を起こさなければ、社員も動きはしません。人と人の交流のなかで一番大事なことは、元気で、大きな声で『おはようございます』ということです。私は自分から社員に挨拶をし、話しかけるようにしました。銀行も同じ。半期毎の決算の提出を求められると、次は毎月の決算状況もまとめて自主的に提出するようにしました。言われてやるのと、自ら取り組むのとでは、自分の気持ちも相手の印象もまったく違うものになります。大変な時期ですが、大変とうなだれていては何も始まりません。2023年に「大規模展示会」に出展させてもらいました。成約や売上げも大切ですが、そこでの出会いや出展に挑む社員のやる気のほうが重要だと思っています」と岩崎氏は言う。売上げを考える前に代理店の満足を追う。業績を考える前に社員のしあわせを追う。自分のことしか考えなかった企業から相手を考えて動く企業になっていく。相手を想う先には「お互いのしあわせ」が待っているはずだ。岩崎氏は言葉と行動と、そして熱い情熱で社員の意識を改革し、企業を立ち直していった。最後に岩崎氏は笑顔でこう締めくくった。「利益は追うものでなく、付いてくるものです」。これからのフクダ精工がますます楽しみになった。
2023年11月2日(木) ライター:西林 初秋
MOBIO担当者より
高速切削加工の工具ユーザーは、高精度、高品質、長寿命と加工コスト低減を要望する。
その最適工具製造には社員一丸となった事業推進力が必要。
そこで就任以来社長が率先実行されているのが、思いを口に出す、文字で表す、情報共有などの企業体質改善。
全員で「喜びを共有」し、ハイス鋼工具専業のONLY 1 企業を目指しておられる社長でした。
MOBIO 兒玉