ものづくり中小企業の変革と挑戦を支援しているMOBIOでは、MOBIO 常設展示場出展企業およびインキュベートルームの入居企業の「 変革と挑戦 」について、取り組みのきっかけ(背景)、 具体的な内容などをインタビューしご紹介していきます。ここにはヒントが沢山詰まっているはずです。 じっくりお読みください!
※出展終了およびインキュベートルームから退居した企業の記事は掲載しておりません。
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可能性思考で未来を切り拓く、“人”が価値を生むものづくり
近畿工業株式会社 代表取締役 田中 聡一 氏
会社名 | 近畿工業株式会社 |
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住所 | 大阪府東大阪市本庄2-1-25 |
電話番号 | 072-962-0361 |
代表者名 | 代表取締役 田中 聡一 氏 |
設立 | 1951年 |
事業内容 | 油圧シリンダー部品、建機・重機・環境・エネルギー・産業機械関連部品の加工製作 |
夢は見るだけではダメ。考え、進化させてこそ現実になる
祖父が創業した近畿工業株式会社を、現社長・田中聡一氏が引き継いだのは31歳のとき。代表取締役に就任して間もない頃、師と仰ぐ経営者の先輩から言われたのが、「社長業で最も大切なことは夢を見ることじゃない、見続けることだ」という言葉だった。その意味は、「今日描いた1年後の夢を明日も明後日も同じように見るのではなく、常にその日から1年後の夢へと進化させていかなくてはならない」ということ。最初は「なんのこっちゃ?」と思った田中社長だったが、「振り返ってみると、実際に夢を描いて、常にその先、その先を考えていったからこそ、より具体的なビジョンが見えてきて、それが現実になっていった」と語る。
同社は、理髪店や歯科医院のイスに使われている部品などの油圧シリンダー部品を筆頭に、環境・エネルギー部品、建機・重機部品、食品機械をはじめとする様々な業界向けの機械部品・装置の加工製作を行っている。その中で田中社長がまず思い描いたのは、『駅前鉄工所構想』だ。それは、例えば買い物に来た女性が手持ちのお金が足りなくて困っているとき、駅前にある近畿工業の鉄工所ビルへ行けば2時間だけ働いて賃金をもらうことができる————そんな会社があったらおもしろい!という妄想から生まれた。
「じゃあ、それを実現するには何が必要か」。田中社長の妄想は、どんどん具体的な夢に進化していく。
まず、その人をどこに配置するか決めるためには、受付で機械の稼働状況がリアルタイムで確認できないといけない。次に、作業現場では簡単な説明で作業してもらえるよう、仕事が標準化されていなければならない。そして初めての人に作業してもらうのだから、ポカヨケ(失敗できないシステム)を完備し、ケガをしない、汚れない現場にしておかなければいけない。そんな具体的なビジョンを、工場へ行っては社員に耳にタコができるくらい語って聞かせた。すると、徐々に現実が変わっていった。「工場の中の4S(整理、整頓、清掃、清潔)や、仕事の標準化、データ取りの精度などがどんどん向上していったんです」と田中社長。
さらに2000年には、今後、参入したい分野として、健康医療・食品・環境・ロボットという4つを挙げ、社内に発信した。その結果、今では食品加工機械や水質改善装置、AGV(無人搬送装置)の部品などを受注することができている。夢を描き、進化させ、それを発信することの大切さを、見事に体現してきているのだ。
ピンチをチャンスに変えるのは好奇心・可能性思考・会話力
「私たちの仕事は機械設備を使って金属部品を加工すること。だから、機械の精度や最新設備・技術を維持することは非常に重要です。でも、それ以上に大切にしなければならないのは『人間力』です」と田中社長は言う。実は、うまくいっているかに見えた駅前鉄工所構想が、一時、停滞したことがある。社長いわく、その原因は「駅前鉄工所で働く『人』の具体的なイメージが示せていなかったから」。そこで、駅前鉄工所で働く人を『ハイテク 村の鍛冶屋』として、その人物像を定義づける『5つの人間力』を掲げた。
なかでも重要視しているのは、好奇心・可能性思考・会話力だ。「不良を出したとき、反省して落ち込むだけでは何も生まれない。でも、“この不良はどんな条件のときにできるのか”という可能性思考に転換し、それを追究し始めれば途端にわくわくしてくる。そうやって好奇心を持って取り組んだことは記憶に残るし、不良の条件がわかれば再発も防げる。そのとき重要なのは会話力。1人では解けない問題も、人と会話することで解決策が見えてくることはおおいにあるんです」(田中社長)。
こうした可能性思考は社員に少しずつ浸透。生産効率を上げる取り組みにおいても、「そんなことは無理という固定概念を捨て、可能性を探ってほしい」と訴えたところ、コロナ禍で低下した稼働時間が通常並みに回復したときも、時間外勤務なしで予定した生産量をクリアすることができたと言う。
また、製造業にリモートは難しいと言われている中、スマートグラスを使ったリモート製造に実験的に取り組み、うまくいくことも実証。困難な時代にあっても、それをチャンスに変えることができる。田中社長が唱える可能性思考は、まさに無敵のプラス思考と言えるだろう。
70周年を迎え、夢は80周年、さらに100周年へと進化し続ける
2020年、同社は70周年を迎えた。その際、作成した次期長期計画書のタイトルは「Try to 80th! Dream of 100th!」。ここでもやはり田中社長は、10年後の80周年にとどまらず、さらにその先の100周年を見据えて夢を描いている。
前述した駅前鉄工所構想も、今は『駅前鉄工所セントラルキッチン』とバージョンアップして、会社全体のシステムを1カ所に集約し効率化する計画を進行中。スマートグラスを使ったリモート製造も、いずれは海外での展開まで見据えている。また、顧客の要望を形にするために最適な手順や加工方法など「工程を設計する」のが同社の強みでもある。「そのためにはいろんな加工を勉強しておく必要があるので、今までやったことのない素材の加工にもチャレンジしていきたい」と意欲を燃やす。
夢を見るだけではない、それを実現していく力こそが、田中社長ひいては近畿工業の魅力なのだと感じた。
2020年12月7日(月) ライター:成田知子
MOBIO担当者より
2020年の設立70周年は通過点で、今は100周年の夢を描くという田中社長。
「夢を見る、見続ける」ために社長就任以来毎年作り続けてこられたのが、「駅前鉄工所」「ハイテク村の鍛冶屋」などのユニークな企業スローガン。それは、わかりやすく具体化することで、モノ好き集団が新しいことへ挑戦しやすくするためでしょう。
先を見つめて走り続ける人・田中社長の元気マラソンから何が生み出されるのか、新しい夢の形を見たいと強く思ったインタビューでした。
(MOBIO・兒玉)