ものづくり中小企業の変革と挑戦を支援しているMOBIOでは、MOBIO 常設展示場出展企業およびインキュベートルームの入居企業の「 変革と挑戦 」について、取り組みのきっかけ(背景)、 具体的な内容などをインタビューしご紹介していきます。ここにはヒントが沢山詰まっているはずです。 じっくりお読みください!
※出展終了およびインキュベートルームから退居した企業の記事は掲載しておりません。
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パソコン大好き少年から薄板精密板金加工の匠へ
株式会社エイトテック 代表取締役 木村 俊雄 氏
会社名 | 株式会社エイトテック |
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住所 | 〒532-0035 大阪府大阪市淀川区三津屋南3-7-3 |
電話番号 | 06-6308-7517 |
代表者名 | 代表取締役 木村 俊雄 氏 |
設立 | 1989年(平成元年) |
事業内容 | 精密板金、試作品製作 |
43歳の時、脱サラして起業。「断ったらあかん」の精神でノウハウを蓄積
エイトテックは、家電製品や医療機器などの製品開発品用の試作品を短納期で製作する、薄板精密板金加工を主力事業としている。顧客からくる3次元データや図面を3D CADに入力し、炭酸ガスレーザー加工機やCNCタレットパンチプレスなど、高精度かつ複雑な形状を生み出す設備を駆使して加工を行っている。
「どの作品も100%オーダーメイドなので、仕事を受けるたびに、どうやってつくろうかと悩みながら懸命に勉強して、OJTでノウハウを蓄積してきました」と木村氏。
その技術力の高さから、ものづくり振興協会の副会長や大阪溶接協会の会長などを歴任してきたが、実はこの世界に入ったのは43歳の時。大手鋳鉄管メーカーを脱サラして起業したという、異色の経歴を持つ人物だ。
「金属プレス会社を経営する親戚から、援助するから試作品製作の会社を経営しないかと誘われたのが発端。同業者や機械メーカーを見学して、『これやったら、できるわ』という感じで独立しました」
まるで緊張感のない独立経緯だが、本人にはそれなりの勝算があった。というのも木村氏自身が、パソコン黎明期にNECの98シリーズに熱狂し、数々のプログラムを自作してしまうほどの筋金入りのパソコン大好き少年だったので、3D CADやレーザー加工機などの先進機器も、違和感なく使いこなせる自信があったのだ。実際、それら設備の操作修得は、機械メーカーで短時間の講習を受けただけで、あとは全て独学で覚えてしまったという。
「今でこそ同業者から、『なんでそんな複雑なもん、つくれるの?』と驚かれますが、創業期からひとつひとつの仕事が全て、私にとっては貴重な教材でした。来る仕事はどんなに難しいものでも、絶対に断ったらあかんという覚悟で取り組んできたおかげで、自然とさまざまなノウハウが身についてきたのです」
極小サイズの金属部品を試作する技術力は他社には真似のできない強み
薄板精密板金加工を得意とする同業者は少なくないが、指先ほどの極小サイズの金属部品をオーダー通りにつくりあげる技術力は、競合他社には真似のできない強みだ。金属板に凹凸をつけたり微妙な曲面をつけたりするのも、デジタル制御のマシンではできないので、年代物の手回し式エキセンプレスと、独自開発の治具や金型などを組み合わせ、勘と力加減で手づくりしている。こうしたアナログ的な職人技の数々も、全て仕事をこなす中で修得してきた。
「創業した時から営業マンは置かず、紹介や評判だけで仕事を確保してきました。ですから売上の7割ほどが千差万別な不定期客、固定的な大口の顧客はいません。でも、うちのように細かい試作品がつくれる業者は限られているので、不況期でも仕事がなくなることがないのです」
最近では、ホームページやブログを見た個人が、ネット経由で仕事を頼んでくるケースも多い。面白いところでは、「手づくり石鹸を等分に切るカッターをつくってほしい」という依頼なども飛び込んでくる。
全く初耳の製品で専門外の分野だけに断るのが普通だが、木村氏の好奇心はそんなことでは折れない。ネット検索で手づくり石鹸なるものを勉強し、YouTube動画で完成品をカットする作業まで確認して、「どうやらピアノ線で切るのが主流らしい」という解をつきとめてしまう。
そこまで分かれば、あとは希望する寸法をヒアリングするだけ。見事、オリジナル石鹸カッターが完成し、依頼主は大満足。そうしたやりとりがブログで評判になり、今では手づくり石鹸マニアからの注文が次々に舞い込んでくるように。趣味と実益が一致した、実に楽しげな仕事ぶりである。
価格競争に巻き込まれない「オリジナル商品」の開発に挑戦中
「中小企業は価格競争に巻き込まれてはだめ。そのためにも、オリジナル商品を持ちたい」というのが、木村氏が長年テーマとしてきた「変革と挑戦」である。アイデアはいろいろとあるのだが、「社会に必要とされ、社会貢献できるものをつくりたい」と考えている。
そこで最初につくったのが、次亜塩素酸生成装置「ナチュライザー」。食塩水があれば、殺菌力の強い電解水が5分でつくれる装置で、鳥インフルエンザやノロウイルスなどの消毒用に多方面で活躍する。
さらにその技術を応用して現在開発しているのが、汚れた水源を浄化・殺菌する「ミネラリー」だ。太陽光発電で水源の殺菌ができる設備を開発し、不衛生な飲料水しかないアジアやアフリカの無電源地域を支援しようというプロジェクトで、昨年度からものづくり開発支援補助金を活用し、「ソーラーエネルギーを利用した安全な飲料水生成装置の開発事業」に着手している。
木村氏の挑戦はロボット分野にも及んでいる。平成17年に、8企業と大阪市立大学が連携して開発した海遊館向けの水槽掃除ロボットの試作品を、中心になって製作したのが木村氏なのだ。その時、考えだした水力モーターの技術を水力発電に転用し、災害による停電時などに活躍するマイクロ水力発電機の開発に現在取り組んでいる。NPO法人が立ち上げた「なにわのマイクロ水力発電を考える会」にも参加し、豪雨災害対策で困っている自治体などに装置の常備を提案している。
「いろいろありましたが、やはり独立してよかった。ものづくりの仕事は本当に楽しい」と断言する木村氏は、会社が休みの土曜日に出社して新たな技術を集中して勉強したり、データ入力をしたりするのも全然苦にならない。“好きこそ物の上手なれ”という言葉を地で行く、元祖パソコン少年の進撃はこれからも続く―。
取材日:2014年2月26日(水) ライター:三浪伸夫
MOBIO担当者より
根っからのエンジニアは新たな業務に次々とチャレンジ。休日に学んだという木村社長はCAD,CAM手法などにより高精度・短納期のプレス製品を求める需要に対応。更に、国内向け石鹸カッターや消毒用水生成装置、新興国向けの安全な飲料水生成装置と製品開発に及ぶ技術は、写真のポップアップ鈑金大阪城以上に輝いていた。(兒玉)