ものづくり中小企業の変革と挑戦を支援しているMOBIOでは、MOBIO 常設展示場出展企業およびインキュベートルームの入居企業の「 変革と挑戦 」について、取り組みのきっかけ(背景)、 具体的な内容などをインタビューしご紹介していきます。ここにはヒントが沢山詰まっているはずです。 じっくりお読みください!
※出展終了およびインキュベートルームから退居した企業の記事は掲載しておりません。
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「人間力」を武器に、精密部品の高品質・安定供給を実現
畑ダイカスト工業株式会社 代表取締役 畑 浩基 氏
会社名 | 畑ダイカスト工業株式会社 |
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住所 | 大阪府東大阪市西石切町6-3-39 |
電話番号 | 072-984-2575 |
代表者名 | 代表取締役 畑 浩基 氏 |
設立 | 1976年 |
事業内容 | 亜鉛精密鋳造各種加工 |
高い寸法精度で小型かつ複雑形状も大量生産できるのが亜鉛ダイカストの強み
社名に冠されている通り、畑ダイカスト工業株式会社が手掛けるのは、溶融した合金を金型に流し込み、素早く凝固させる「ダイカスト工法」による製品づくりだ。なかでも、アルミダイカストを扱うメーカーが多い中、同社は創業当初から亜鉛を主流にダイカスト製品をつくり続けてきた。
軽量なアルミは大きい製品に対応できるのに対し、亜鉛はどちらかというと小さな精密部品に向いている。また、アルミやプラスチックと違って亜鉛は伸び縮みしにくいため、成型したときの寸法精度がよく、複雑な形状も正確に再現できる。融点が387℃と低いため、金型が痛みにくいことも特長だ。
「わかりやすいところでは、僕が子供の頃によく遊んだミニカーや超合金も、亜鉛ダイカスト製品の一つです」と畑社長。「いずれ、それらを“畑ダイカスト工業製”にするのが夢」と、少年のような笑顔をのぞかせる。
現在は、手すり金物・取っ手・サッシ向け商品などの建材、ミッション関連部品・ステアリング関連部品などの自動車・バイク関連部品を中心に製造しているが、同社には最小5t〜最大100tまで8台のダイカストマシンがあり、一般の人が想像するよりはるかに小さい部品まで製作可能だという(写真参照)。
「我々は長年やってきた亜鉛に愛着がある。それに精密なものを顧客の要望どおりにつくるのは、難しいけど面白い。単純な形状のものから、亜鉛が得意とする薄肉、複雑形状のものまで、どんなものでも量産できるダイカストの強みを活かして、今後は建材や自動車部品以外にも様々な業種に対応していきたい」と意気込む。
風通しのいい環境、失敗を恐れない文化が、いい人、いい製品をつくる
時代とともに品質への要求は厳しくなる一方だが、同社では年間400万個もの製品を不良品なしで安定供給し続けている。そこにはさぞかし高度な技術力が存在するのだろうと尋ねてみると、畑社長からは「もちろん先代の時から引き継いできた技術はある。でも、何よりも品質の鍵を握るのは社員の人間性」という答えが返ってきた。
例えば、少しのバリでも発生するとそれはたちまち不良品になる。しかし、普段から金型やマシンをきれいに掃除したり、身の周りを整理整頓するといった人として基本的なことができていれば、金型もよい状態に保つことができ、それが結果的に品質に反映される。
また、同社では金型を発注する際、製品の目立たないところにパーティングラインが来るように指定している。これによってペーパーで磨くなどの後処理を減らすことができ、工程が少なくなる分、納期を短縮しコストも削減できる。こうした工夫も、あとで処理する人の手間をいかに軽減できるか、顧客にいかに早く、低コストで美しい品物を届けることができるか、そのようなことに配慮できる人間性の現れにほかならない。
そして、社員の人間性を育むべく力を入れているのが、一人ひとりが気持ちよく安心して働ける職場づくり、失敗を恐れずチャレンジできる風土づくりだ。毎日の朝礼・終礼をはじめ、ミーティングなどを頻繁に行っているのもその一環。社長を含む社員同士のコミュニケーションを重ねることで、お互いを思いやる人間性が培われ、それはやがて物言わぬ機械や製品の品質にも気を配ることへとつながっていく。
外国人従業員が多い職場において、「日本語がうまく話せないのは当たり前。臆することなく、どんどん喋ろう」「事故さえなければ、何にでもチャレンジしてOK」と社員たちの背中を押すのも、自らが若い時に外国へ行って苦労したり、失敗が許されず理不尽な思いをした畑社長ならではの人材育成法だ。そんな、のびのびと働ける環境だからか、夏は暑くて過酷な職場にもかかわらず、辞めていく人はほとんどいないという。
最初は受け身だった社員たちもだんだん自発的に意見を言うようになり、今年度からは製造・検査・営業の各部門にリーダーを立て、部門ごとに目標を決めてチャレンジするといった積極的な取り組みも開始した。「発想の違いに驚くこともたくさんあるけど、私は社員のみなさんの力を信じています」と畑社長。
風通しのいい職場環境で培われた「人間力」こそが、他社にない同社の「技術力」になっているのだ。
若い力で日本および他国のダイカスト業界を牽引していきたい
近年は展示会に参加したり、SNSで情報発信するなど、プル営業にも力を入れている。業界の高齢化に伴い、「今までやってもらっていた会社がなくなり、亜鉛ダイカストをやっているところを探していた」と声がかかったり、これまでとは違う業種から「こんなものつくれますか?」と問い合わせがくることもあり、「固定観念にとらわれず、発信することの大切さを痛感した」と畑社長は語る。
SNSでのやりとりや、現地に見学に行くなど、海外のダイカストメーカーとも交流があり、改めて日本の技術力の高さを実感することも多いのだそう。「今後は海外にも当社の製品をアピールしていきたいし、従業員たちのふるさとをはじめ、これから発展するであろう他国にも貢献できたら嬉しい」(畑社長)。
平均年齢30代という若さを活かし、継承してきた技術力+人間力でさらなる可能性を追求しようとする同社の姿勢に、ダイカスト業界の未来を担うメーカーとして生き残る覚悟が感じられた。
2020年4月28日(火) ライター:成田知子
MOBIO担当者より
ますます薄肉軽量化が必要な自動車や電子部品業界。その要望に対応できる亜鉛ダイカスト事業を推進されるのが畑社長。さらに、地域・国を超えた情報発信の強化、畑イズムとも呼ぶ自由闊達な社風醸成などにより、新業界参入も積極推進中。
初のオンライン・インタビューで、今こそ"日本製"の付加価値創出が可能という大阪企業の力強さを教わりました。(MOBIO 兒玉)