ものづくり中小企業の変革と挑戦を支援しているMOBIOでは、MOBIO 常設展示場出展企業様・インキュベートルームの入居企業様の「 変革と挑戦 」について、取り組みのきっかけ(背景)、 具体的な内容などをインタビューしご紹介していきます。ここにはヒントが沢山詰まっているはずです。 じっくりお読みください!
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先発優位の設備投資で年商10倍の高成長を実現
株式会社国誉アルミ製作所 代表取締役 境田 哲 氏
会社名 | 株式会社国誉アルミ製作所 |
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住所 | 〒587-0051 大阪府堺市美原区北余部267-6 |
電話番号 | 072-369-2594 |
代表者名 | 代表取締役 境田 哲 氏 |
設立 | 1958年(昭和33年) |
事業内容 | スピニング加工、3次元レーザー加工、3次元レーザー溶接 |
アルミ鍋製造からスピニング加工事業へ転身
国誉アルミ製作所は、1958年にアルミ鍋の製造工場として創業。以来、半世紀近く、アルミ鍋のドローイングプレス(深絞り加工)を主力事業としてきた。
深絞り加工した鍋にはシワが残るので、それをとるためにスピニング(ヘラ絞り)加工で仕上げを行う必要がある。技術屋だった先代社長は、半自動のヘラ絞り加工機を2台購入して、職人仕事の機械化をいち早く実践した。境田氏は、ちょうどその事業構造の転換期に先代社長に請われて入社し、スピニング加工の仕事を開拓していった。
「スピニング加工は量産型ではありませんが、低コスト・短納期で多品種少量生産が得意。しかもそれを機械化している。これは面白いぞと思って、転職を決めたのです」
1990年に入社した境田氏は、1年間に100社もの飛び込み営業を敢行し、あちこちの展示会場でチラシを配り続けた。苦労の甲斐あって、1年後には灰皿やくずかごなど環境設備機器のトップメーカーとの取引に成功。続いて焼肉チェーン店のロースター、百貨店やJRの灰皿やくずかごなども次々に受注し、1993年に鍋製造業から撤退、スピニング加工1本に絞ることを決めた。
「昔からヘラ屋は気難しい職人気質の世界で、『納期を短縮してほしい』と頼んでも、『そんな無理きけるか!よそに行け』と理不尽なほどの作り手優位。それをうちは、機械化で納期を厳守、低コストにした。職人のわがままに嫌気がさしていた顧客が、うちに鞍替えするのは当然でした」
三次元レーザー加工機が契機となって芋づる式の設備投資が続く
スピニング加工事業を軌道に乗せた境田氏は、次の一手として、1995年に三次元レーザー加工機を導入した。「当時、町工場で三次元レーザー加工機を持っているところは皆無。せいぜい大手メーカーが使っている程度」だったという。
「年商がまだ2億円程度の時期に8千万円もする設備を導入したので、『あんな高い機械入れて、国誉つぶれるで』と陰口を言う同業者もいたほどです。でも私には、勝算がありました。“金型レス”で製造してほしいという潜在需要は眠っていましたから」
結果的にこの冒険が、同社を大きく成長させる契機となった。金型をつくるほどのロットがない製品を、短納期・低コストでつくってほしいという注文が殺到し、半年もすると設備はフル稼働状態になったのだ。
大量の受注をこなすうちに、平面加工の仕事も増えてきたので、今度は二次元レーザー加工機を導入。そのうちに、「部品の加工が終わったら、溶接もしてよ」という要望をもらうようになり、三次元レーザー加工溶接機も導入するという、まさに連戦連勝“芋づる式”の設備導入が続いていった。
設備導入が続くうちに、70坪あった平野区の2つの工場が手狭になり、堺市美原区に移転して845坪の本社工場を新設。スピニング加工やプレス加工、溶接・板金などの拠点として整備した。一方、以前からあった松原工場には、三次元レーザー加工機の他に5軸マシニングセンターやマシニングセンター、NC旋盤を導入して、さらに高精度・高効率の製造体制を構築した。
この結果、現在の同社は、「従業員よりも設備の数が多い」というほどの圧倒的な設備体制を完備。ワンストップで全ての加工ができる、低コスト・短納期の“複合加工”を売りにして顧客を拡大している。
振り返ってみればその原点は、どこよりも早く三次元レーザー加工機を導入したことで獲得できた“先行者利益”にあった。境田氏はその利益を貯めこまずに資本として回転させ、次々に最新鋭の設備を導入することで、先発優位のアドバンテージを効かせ続けた。
この経営戦略は売上にも直結し、同社の年商は“倍々ゲーム”のように伸びていった。境田氏が入社時に5千万円だった年商は、7年後には5億円余りになり、NHKがビジネス番組で「売上を10倍にした会社」というテーマで報道したほどであった。
真の実力を把握するために、難易度の高い注文に挑戦
境田氏にとって「挑戦」とは、「どんなに難易度の高い注文でも、逃げずに引き受けること」だという。
「私はスタッフに向かって必ず、『挑戦しろ。どこまでやれるか試してみろ』とはっぱをかけます。自分たちの実力と限界を知らないと、それ以上の高みを目指すこともできませんし、自信をもって営業することもできませんから」
真剣勝負の場で発揮できなければ、それは真の実力とはいわない。だから境田氏はスタッフに、高度な加工技術を自在に使いこなせるように、つねに実戦の場で技に磨きをかけ続けることを要求する。この練磨のおかげで、加工機メーカーも断るほど難しい、国家プロジェクトの実験装置を加工する依頼を引き受けて見事に納品し、受注企業から感謝されたこともある。
「加工する素材が、厚さ9mmもある巨大な金属の球体で、高価な一品もの。大手メーカーが断るのも無理はありません。ですが私は、『失敗したら会社が弁償するから挑戦しろ』とスタッフを鼓舞しました。時間と神経を使うわりに儲けはありませんが、スタッフの実力が向上しますし、『大メーカーが断る仕事でも、国誉アルミは引き受ける』という評判にもなります」
次々に設備投資を実行し、製造業としての能力を高めてきた同社だが、境田氏は将来を見据え、「エネルギー事業」という異業種に参入して、企業に「変革」をもたらそうと考えている。
そのために八尾工場を開設し、専属スタッフ数名を新規採用し事業を進めている。当面の投資額は1億7千万円、事業の成否はやってみないとわからないが、境田氏は「人生、たまには賭けをしないと面白くない」と挑むことにした。
これまでに数々の高額投資を英断してきた肝のすわった境田氏も、さすがに今回ばかりは、「ちょっとドキドキしている」そうだ。
取材日:2014年6月17日(火) ライター:三浪伸夫
MOBIO担当者より
「怖がらずにやってみる!」「限界にチャレンジ」などの言葉が連発する取材。後発組の企業は職人技では対抗できない。だから設備投資を惜しまずお客様の要望にNOと言わないことで、次々と仕事を受注している国誉アルミ製作所様。常に走り続ける会社の社長は、取材後も次の現場へ飛び出していかれました。(奥田)