ものづくり中小企業の変革と挑戦を支援しているMOBIOでは、MOBIO 常設展示場出展企業様・インキュベートルームの入居企業様の「 変革と挑戦 」について、取り組みのきっかけ(背景)、 具体的な内容などをインタビューしご紹介していきます。ここにはヒントが沢山詰まっているはずです。 じっくりお読みください!
pick up company 056
製造技術革新で市場に新風を巻き起こす
歯間ブラシのパイオニア。
デンタルプロ株式会社 代表取締役社長 佐野 晃 氏
会社名 | デンタルプロ株式会社 |
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住所 | 〒581-0038 大阪府八尾市若林町2-58 |
電話番号 | 072-920-6077 |
代表者名 | 代表取締役社長 佐野 晃 氏 |
設立 | 1980年(昭和55年) |
事業内容 | デンタルケア用品製造 |
普及価格と品質を実現し、歯間ブラシ市場の潜在需要を喚起する。
オーラルケア、歯周ポケット、プラークコントロール。気がつけば私たちの生活に浸透してきた言葉だ。それとともに歯ブラシは進化を遂げ、歯垢を効率良く除去できる歯間ブラシのような新たなグッズも台頭してきた。この歯間ブラシを一般に普及させた立役者が、デンタルプロ株式会社だ。本社は「歯ブラシ生産日本一の町・八尾」にある。
「創業時より歯ブラシ一筋で、祖父の代にはアメリカの大手百貨店に輸出しており、その後も国内大手企業のOEMやPBを手がけ、技術力や品質には定評がありました。この歴史のなかでいかに自社ブランドを立ち上げていくかが課題でした」。そう語るのは佐野晃代表取締役社長。
自社ブランドを立ち上げる以前の1990年頃は、歯ブラシが1本100円に対して、歯間ブラシ「1本」が120円~150円と今では考えられないほど割高だった。
その現状を打破したのは、あるドイツ製の機械。4年に1回開催される世界最大規模のブラシ見本市「Interbrush(インターブラシ)」で、歯間ブラシに転用できそうな機械を発見する。「それはマスカラを製造する機械で、コストダウンを意識していなければ素通りしていたでしょう」。この機械ではワイヤーを2つに曲げて毛を挟んで植毛する。グリップは別で成型し、ブラシを差し込んで熱で止める。ブラシを巻くと同時にグリップが入るので、1個あたり約4秒ででき上がる。
本格的な機械の導入前にした現地での社員研修で、佐野氏はひとつの難点を発見する。「ワイヤーを螺旋状に曲げているので、使っていたらネジのように抜けてしまうのです。その対策として考案したのがワイヤーの一部をつぶす行程を入れること。それにより製法パテントを取得できました」。こうしてドイツ製自動植毛機の導入と、「抜け防止」カシメ製法特許の取得という独自の新技術を確立し、歯間ブラシの量産体制が実現した。
20年間で市場約10倍強に。
市場を創造するアイデアと顧客目線のサービス。
満を持して'94年に発売したものは8本360円、1本あたり45円までコストダウンに成功した。発売以来、売上は倍増し続け瞬く間に大ヒット商品に。現在もワイヤーI型と呼ばれるストレートタイプは国内シェア37.7%(出典SRI2017年4月5月)を誇る。
さらなる市場拡大のために1998年からはじめたのが、「サイズ交換カスタマーサービス」。使用後サイズが合わない場合、希望のサイズの商品と交換する。「みなさん自分の洋服や靴のサイズがわかっていますが、歯間ブラシだとどれがピッタリかわからないでしょ」。業界初にして、未だどこもやっていないサービスだ。これは佐野氏のアイデア。
サービス自体が画期的だが、さらに戦略的なシステムを作り出している。返品商品が届くと、交換商品とアンケート、さらにそのアンケートに回答することを前提にお礼の歯ブラシを同封するというもの。消費者としてはサプライズであり、会社としてはアンケートの回収と歯ブラシのカスタマーになる下地も用意できる。
アンケートの回答もハガキでポスト投函するだけにしてあり、つねに顧客の立場に立って考える同社らしいスタンス。おかげでアンケートの回収率は50%と非常に高い。このようにしてファンを増やし、意見や要望を元に改善につなげていく。それがリピーターの多い人気商品につながる。
5億円から現在では83億円まで拡大した歯間ブラシ市場は、同社がこのような独自のアイデアと技術で切り拓いてきた。「アメリカなどはフロスが主流です。なぜなら細いものがつくれないからです。当社にはシリーズ最細のサイズ0という、シャープペンシル0.5mmの芯を通せるものもあります。世界でもこのサイズをつくれるのは数少ないと思います」
ユーザーが求める「歯ブラシの新しい価値」を追求し続ける。
同社のもうひとつのヒット商品が「デンタルプロ ブラック」。歯垢除去に優れたプラチナコロイドセラミックス(PCC)入り黒の特殊毛と「フッ素配合ダイヤ毛」を使用し、水だけでも歯垢除去効果がある。清潔感が重要視される業界において、タブーだった黒を使用した商品だ。
しかし売れなかった。「商品には確固たる自信もありましたが、マーケットに対してどうアクションすればいいか分からなかったんです」。それが10年程前、あるひと言で変わる。バイヤーからカラフルなグリップを黒で統一して、“黒の力”のコピーで押していくよう提案された。これにより2006年、4回目のブランドで成功する。
ここから佐野氏は手応えを感じたという。「当社はアートを付加した他社にないものを目指すべきと。幅広い層に受けるものをつくる大手企業に対して、自分たちは“新しい価値”で差別化を図ろう」
最近は新しい挑戦として、女性の美に対する気持ちにフォーカスした新美容系歯ブラシも。これまで虫歯や歯周病予防といったネガティブワードで語られがちなアイテムを、美のためにオーラルケアを楽しむというポジティブ発想だ。
独創的なアイデアにより市場に新しい価値を提案し、今年90周年を迎えた同社は今後どうなっていくのだろう。「ある大学の先生に言われたんです。“計画のもとに利益を出せる会社になりなさい”と。なんとなく利益が出ている会社ではいけない。ですから現在は製造~販売までの一貫システムを確立すべく、3、4年かけて取り組んでいるところです。90周年を迎えた今、システムをきちんと見直して改善しておけば、次なる10年、20年を盤石な体制で迎えられますから」
取材日:2017年6月19日(月) ライター:町田 佳子
MOBIO担当者より
ヒット商品「デンタルプロ ブラック」の歯ブラシ誕生から現在まで、デザインの変化は私たち人間の心を掴む歴史でした。歯間ブラシ「サイズ交換サービス」のアイデアは業界初!と笑顔で語っておられた佐野社長、盤石な会社にするべく新たなステージに進みますと力強いお言葉でした。(山口)