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MOBI6

ものづくり企業の次の一手は? 毎号6つの旬な記事で熱い「変革と挑戦」を紹介するモビロク。
現状打破のヒントやモチベーションアップにつながります。

新たな環境でネットワークを構築。
この地でマグネシウムの可能性に賭ける。

優れた振動吸収性からオーディオで振動の伝わりを抑えるインシュレーター(上)。総削り出し成形に、耐食性
の高い表面処理を施したスバルターボ車用オイルフィラーキャップ(右)

工場を移転するということは大きな決断だ。金属加工の冨士精機も2021年5月に創業の地を離れ、現在の場所で新たなスタートを切った。数年前には廃業も考えていた田村孝代表取締役社長の心を動かしたのは人との出会い。MOBIOから向陽エンジニアリング株式会社の山下社長を紹介された。同社は独自技術を活用した機構パーツの製品開発をおこなう企業。相談を受けた案件への迅速な対応や技術力に感激した山下氏から、自社ビルへの移転を提案された。仕事を通じて山下氏を「凄いエンジニアだ」と感じていた田村氏は快諾する。「“一緒に働きたい”という言葉も嬉しかった。それと当社の社員は若く、今後20年25年と続けるには新しい挑戦が必要ですから」「ものづくりを川にたとえると、設計やデザインが上流で、中流はそれに加工を施して形にする。うちはここ。さらに下流は熱処理や研磨して最終製品にするところ。今後は上流から下流まで一気通貫できる企業しか生き残れない。移転したのは山下さんとのネットワークでそれが可能だから」。
その頃、事業再構築補助金を知り申請、採択される。そこに書かれたのは同社が得意とするマグネシム加工だ。マグネシウムは軽い金属の代表であるアルミよりも
軽い金属。「振動吸収性に優れ、放熱性が良い、比強度が高い、電磁波シールド性が高い、耐くぼみ性が良い、切削性に優れる」とメリット上げればきりがない。しかも原材料は海中に無尽蔵にある。ではなぜ普及しないのか。課題とされるのは安全性。それも「管理をきちんとすれば問題ない」と語り、社員には徹底した教育もおこなっている。同社では地下鉄の可動式ホーム柵を制御する機構や製造現場で使う工作機械、オーディオで振動の伝わりを抑えるインシュレーターなどにマグネシウムを使用した製品を開発。量産品としてマグネシウムが使われることはまだ少ないが、田村氏には自信がある。「素材のよさを理解してもらえれば、マグネシウムを使った部品の需用は高まる」。今後は認知度を上げながら取引先を開拓し売上を増やしていく。

>紙面からの続き

「ものづくりとは、ひとづくり」を実践。

田村氏の父が興した冨士精機。子どもの頃から働く姿を見てきた、大好きな父が病に倒れ余命宣言を受けた。それが33歳のとき。自分が後を継ぐことを告げると涙を流して喜んだという。じつは大学受験に失敗した際、家業へ就職を希望したことがあった。しかしそのときは父に断られる。「合格してから来るならともかく、逃げ道としては来て欲しくない」と。その言葉に田村氏は一念奮起。教育大学に合格し、卒業後は高校で体育教師となった。その頃言われた先輩教師の言葉は、今も胸に刻み込まれている。それは「教師とは長所を引き出すのが仕事だ」ということ。「9人の先生がこの子はダメだと言っても、“いやこの子にはこんないいところがある”と引き出せる先生になれと」。
それは今の仕事にも活きている。ものづくりをする人は、自分からアピールするのが苦手な人も多い。そこで社長に長所を引き出してもらえれば、さぞモチベーションも上がることだろう。田村氏は人材育成こそが仕事の醍醐味だと語る。自分の年齢から「あと1人でも2人でもいいから、しっかり人を育てたいですね」


株式会社冨士精機
http://www.fujiseiki-mg.com/
堺市堺区錦綾町1-8-19
TEL 072-276-4542

工作機械ではパイプの中を入ったマグネシウム製のボールが回転し、1/1000mmの精度で位置決めの役割を担っている。ピッチ5mmの場合1回転で5mm移動する

2005年頃から活動を開始した「フィールド・コア平野」はキャリア支援事業。地域の高校生たちにものづくりの楽しさを伝え続けている

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