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ものづくり企業の次の一手は? 毎号6つの旬な記事で熱い「変革と挑戦」を紹介するモビロク。
現状打破のヒントやモチベーションアップにつながります。
和の感性×洋の機能性で、
時代にフィットする和装小物を。
歴史や伝統によって守られた世界、そこで革命を起こすのはたやすいことではない。和装業界のピークは1970年代半ば。3兆円マーケットと言われていたが、ライフスタイルの変化にともない現在では1/10まで縮小する。そんな業界に新風を巻き起こす人がいる。株式会社菱屋の3代目代表取締役社長となる廣田裕宣氏だ。同社は祖父が菱屋呉服店に奉公し、和装小物部門を創設する際に暖簾分けされ1926年に創業。この頃は鼻緒専門、先代の父が草履の製造に着手し、セットで使える口金式のバッグの製造もはじめた。廣田氏が入社したのは1996年。以前は最先端のマーケティングと営業で知られる企業に努めていた廣田氏、古い風習の残る和装業界は180度違う世界だった。
しかし先入観がないからこそ、斬新なアイデアも生まれる。廣田氏はプライベートブランド「カレンブロッソ」を立ち上げた。コンセプトは洋服にも合う和装バッグ。販売も呉服売り場ではなく、婦人靴や鞄のコーナーを狙った。その後、草履の台となるEVAという素材と出会う。軽量でクッション性に優れ、滑りにくいEVA台の草履は、一日歩いても疲れない」と評判を呼ぶ。さらに着物を洋服感覚で楽しむカジュアル着物の流行という追い風が吹く。そんな時代とマッチして生まれた大ヒット商品が「カフェぞうり」。先代は工夫を凝らし、履きやすさを追求してきたがそれをさらに進化させた形だ。
企画から素材の開発、サンプル生産まで手がける廣田氏は「やってみなはれ」の精神でアイデアを形にしていく。京都の工芸作家とコラボした革に金箔を貼ったバッグなど斬新な商品も発表。そして新たなジャンルへの挑戦も。それが一本足サンダル「Zサン」だ。試作を繰り返すうち、履くことでこれまでにない感覚が得られた。足裏が温かくなり疲れがとれるのだ。これなら介護の分野でも売れると考えた。今年から進める大学との産学連携によって、エビデンスの裏付けも期待されている。「可能性に満ちたアイテムなので、今後はスポーツメーカーやスリッパ専門業者と組んで生産力も上げていきたいですね
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さらなる新境地、「琳派シルバーシリーズ」。
「琳派シルバーシリーズ」は、国宝や重要文化財等の複製などを手掛けている箔工芸作家、裕人礫翔氏とのコラボレーションによって生まれた菱屋の新ブランドだ。シンボルとなるのは、俵屋宗達の風神雷神図屏風の金箔を再現する技法を用いて制作した「箔面文様」を、本革に加工したオリジナルレザーだ。
2014年に開催された裕人氏の個展にて薫陶を受けたという廣田氏。そこで出会った「箔面」文様は、裕人氏が美術工芸品の高精度修復術やアートワークの中から生み出したオリジナル意匠であり、制作から400年経って、朽ちて美しさを増した箔の再現柄だった。翌年から試作をはじめ、箔面文様をグラビアロール捺染で表現することに挑戦。厚さ1/10000mmの金箔に3次元的な革の厚みをもたらし、普段使いに適したオリジナル素材の開発に成功した。400年の時を経て朽ちた美の再現。それはヴィンテージの味わいといえる、いつまでも眺めていたくなる逸品だ。
株式会社菱屋
https://www.calenblosso.jp/
大阪市中央区谷町6-18-5
TEL 06-6762-7321