MOBI6
ものづくり企業の次の一手は? 毎号6つの旬な記事で熱い「変革と挑戦」を紹介するモビロク。
現状打破のヒントやモチベーションアップにつながります。
卓越した技術とアイデアで
持つだけ心躍る、そんな傘を。
大阪本社と中国・廈門工場の2つの拠点を持ち、企画・デザインから生産まで自社で一貫製造するカムアクロス。1995年創業の同社はOEMを中心に展開し、「日本品質中国生産」を強みに業績を伸ばしている。そのいっぽうで傘の可能性を広げる活動にも携わる。たとえば地震などで被災した子どもたちの笑顔を撮影し、印刷した傘を広げて希望や平和の願いを発信するアートプロジェクトでは、その象徴である「MERRY UMBRELLA」作製に長年携わる。
「道具としてだけでなく、傘の価値を高めていきたい」と、今中光昭代表取締役は模索し続けている。同社は技術に支えられている自負がある。傘の製造は現在でもほとんどの工程が手作業。手づくりの木型を使って生地を裁断し、ミシンで生地を張り合わせ、糸で生地と親骨を取りつける。大阪府認定「なにわの名工」渡邉政計氏を中心につくられた傘は、その仕上がりの美しさに見とれてしまうほどだ。渡邉氏は、80代半ばにさしかかる今でも、日々技術を向上させ洋傘初の伝統工芸士をめざしている。また常在するもうひとりの「なにわの名工」は、傘の修理専門の職人。「修理して長く使ってもらう。それこそ究極のサスティナブルでしょう」。「ODMに限りなく近いOEM生産をしてきたが、表に出せる商品がない。だから会社のカラーが見えない。今後は世に出ていくためにメーカーへの道すじをつけたい」と、ダイレクトファクトリーとして「黒子からの脱却」をめざす。そのため創業25周年を迎えた2020年から、新しい試みが急増中だ。産学連携プロジェクトとして、上田安子服飾専門学校でデザインの場を提供。同時に「傘デザイン・コンペティション」も開催。これは自由な発想でデザインされたものを、いかに具現化するかという挑戦にもつながった。今年のテーマに「オープンコミュニケーション」を掲げ、社内も改装中。「今後は社員それぞれが、得意分野を探して実現していく会社にしたい」。伝統の技を守りながら、変化し続けることを楽しむ、カムアクロスの第二章はすでにはじまっている。
>紙面からの続き
波瀾万丈の半生で、
オンリーワンの地位を築く。
カムアクロスの今中光昭氏の今日に至る道のりは、さながら小説のようだ。高校卒業後、専門学校に通いながら、傘の製造会社でアルバイトをした今中氏。もともと実家がファスナーの製造と貿易を手掛けており、子どもの頃からものをつくる流れを肌で感じていたという。その懸命な働きぶりを社長に見初められ入社すると、商品企画から営業、出荷や仕入れまで一通りを経験。会社の成長に大いに健闘するも、資金繰りから倒産してしまう。
落ち込むまもなく前の会社で一緒に働いた仲間が、みんな「一緒にやりたい!」と言ってくれ、1995年にカムアクロスを創業。しかし中国に工場を設立し、軌道に乗りかけた矢先、最大の取引先が倒産。年間利益の4倍以上にものぼる焦げつきが発生し、絶体絶命の大ピンチに。その窮地も仕入れ先の台湾人社長に助けられ、紆余曲折の末に工場を軌道に乗せた。その後のリーマン・ショックも何とか乗り越えた。この不屈の精神と行動力があってこそ、現在の揺るぎないポジションが確保されたといえよう。そして日本の傘メーカーとして唯一、中国厦門に自社工場を構え「日本品質」の傘をつくり続け、さらにはこれまでにない「工場主導のブランド確立」をめざすという。今中氏の物語はまだまだ完結しない。
株式会社カムアクロス
https://www.come-across.co.jp/
東大阪市吉田本町1-11-10
TEL 072-967-2725