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こんな時期だからオンライン鼎談
感染防止に立ち向かうものづくり企業
世界的な感染拡大を続ける新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、ものづくり企業へもはかり知れない影響を与えた。ものづくりの現場ではコロナとつきあいながら、あるいはパンデミックが終息したあとも見据えて、どのような戦略を立てて前へ進むべきか考えていかなければならない。
今回登場していただいたのは、多くの企業が大きな変化と逆境に立たされたなか、いち早く自社の技術力を活かして、時代が求める製品を提供した経営者のみなさまだ。各社はコロナ禍で支障をきたしている業務や社員の働き方、営業の不安やリスクにどのような対応を取ったのか。そこには未曾有のパンデミックと折り合いをつけながら生産・営業活動を継続する「ウィズコロナ」「アフターコロナ」時代の製造業の姿があった。
先行き不安なコロナ時代のものづくり。経営者はどう対応したのか。
松田 今回のコロナ禍で、みなさんの会社にも影響はあったと思いますが、社内ではどのように対策されていましたか?
島本 ありがたいことに、現在まで「仕事がないので休業」という状態は一度もなく、時短もおこなっていないです。
松田 それはすごいね。
島本 社内対策としては自分たちで安全策を考え、感染リスクを軽減させながら、来訪者にも安心してもらえる環境づくりを真っ先に手がけました。体温計も購入して全社員が毎朝測って記録するだけでなく、来訪者にも検温に協力してもらうよう努めました。食堂は二交代制利用にし、間仕切りもつくって密にならないように。これは社員が主体的に準備してくれたんですよ。会社としては、身内にコロナ患者が発生した場合の対応などを盛り込んだガイドラインを作成し、社内に貼り出しました。
渡辺 スピード感を持って取り組まれたのですね、うちもエーディーエフさんと同じように基本的な対応はしています。また業務に関していうと、得意先に営業へ行けないのが大きいので、リモートで営業活動ができるように工夫をしています。
松田 ものづくりは休めないから、うちも皆さん同様にまずはマスク着用、手洗い、うがいなどのコロナ対応は徹底して、体温も出勤後に計測して書き出すようにしました。それと出勤時間も時差出勤、仕事がないときは早く帰ってもらえるように工夫して。社内感染を防ぐためにいち早くデスク用スライド式ボードを開発して、まずは自社で活用するなど、とにかくできることはすべてやりましたね。
渡辺 事業に関してはいかがですか? うちは3月以降、前年に比べて大きく売上が落ちました。みなさんの会社ではどういう状況でしたか。
松田 3月は2~3割減ですね。主力製品のリピートの注文がなくなったのが原因。うちでは女性向けの化粧品用の箱を多く製造していまして。これまでは「化粧品は不況時でも売上に影響がない」といわれ、不況に強い商品とされてきましたが、今回は違いました。マスクを使用することで、化粧品の販売数が大きく落ち込んだんです。
島本 うちも3月は下がりました。まわりからは「クリーンルームをつくっているから注文殺到じゃないか」と思われているみたいですけど、全然そんなことはなくて。クリーンルームって設備投資じゃないですか。どの企業もこんな先行き不透明な状態で、投資なんかできないわけですよ。
松田 ああ、たしかに。この時期に投資するのは怖い。
島本 そうでしょ。例年だと年商の4割を占めていた部門なのですが、これが1割程度にとどまってしまった。結果、3月は30%以上売上が落ちたのですが、4月以降は保管庫にもなる物流ボックスという製品が予想以上に売れたので、例年と同じか少し上回るくらいまでなんとか取り戻しています。
渡辺 今後のクリーンルームの見通しはどんな感じですか?
島本 これからは徐々に設備投資も復活するんじゃないかと思います。それとマスク製造に新規参入される企業向けに、DMを送っていこうと考えていて。ほかにも過去に購入いただいた顧客へのメンテナンスの強化とか。このあと話題になると思うのですが、飛沫感染防止対策のフィルターを介したクリーンルームに改良・改善という後付パーツの提案も展開予定です。新たな需要を開拓したり、新たな要素をプラスするという提案で伸ばしていけるのではと考えます。
渡辺 経営に関していうと、当社は厚生労働省の雇用調整助成金を申請したのですが。支援金や融資制度などは活用されましたか。
島本 3月に30%以上売上が落ちた時に、保証付き融資「新型コロナ対策資金」などの融資を受けました。4月以降は先ほどお話したような感じなので、今のところ1円も手を付けていませんが、先手を打って万が一の状態に備えました。今後の売り上げ次第では、持続化給付金も申請するかもしれません。
逆境に負けないものづくりが社員のモチベーションを上げる。
島本 さきほどクリーンルームの話をしましたが、この製品のパーツで帯電防止塩ビシートというものがあり、うちも多くの在庫を抱えていまして。当時有名なオンラインショップでは、間仕切りが軒並み売り切れになっていたので、これを使って「飛沫感染防止卓上パネルパーテーションをつくろう」と、社員が発案してくれたんですね。企画からすぐ製作にかかって、2日でオンラインショップを立ち上げました。
渡辺 これは売れたんじゃないですか。
島本 利益よりは「困っている人を助けたい」という気持ちが強かったですね。この製品は、バーのネジを外すと塩ビシートの長さも調整できるんです。そこには「他社にないものをつくる」という、当社の理
念が反映されています。ほかにも足(土台)が動いて斜めに仕切られる、卓上パーテーション「足動くん」もつくりました。打ち合わせなどでは、相手の斜めに座ることが基本じゃないですか。なおかつものがいろいろ置けるということで、需要があるのではと思いまして。こちらは昨年新卒採用した女性社員が、ネーミングからキャラクターまで手がけてくれました。
渡辺 短期間にいろいろつくられているんですね。
島本 それ以外にも、菌を死滅できる酵素殺菌HEPAフィルターを使用したクリーンブースも展開しています。最近では飲食店向けの仕切りも。テーブルとテーブルの間を仕切るもので、アフターコロナでも、メニュースタンドとしても使用していただけます。
松田 コロナが終息しても、違った使い方ができるというのは面白い! これはいいアイデアですね。
島本 こちらは地元の西淀川区役所にも寄贈しました。今やれることをすぐカタチにして、新聞にも取り上げられて感謝もされる。この一連の流れ、「ものづくりの醍醐味を知り、地域貢献する」ことによって、社員のモチベーションも上がったんですよね。さらに病院に寄贈したのをきっかけに、新しいものづくりへつながっています。
渡辺 医療機器への参入ですか?
島本 救急医の先生に「ストレッチャー用飛沫感染防止柵」を提案して、現在取り組んでいます。先生からは「これが完成したら、世界があっと驚く製品になりますよ」と言っていただけて。じつは私たちが掲
げるのも、まさに「世界があっと驚くものづくり」だったので、この言葉にはとても感慨深いものがありました。
松田 うちは3月下旬に顧客から対面時の対応をするものを、ダンボールでつくってくれないかという依頼がありました。その後、島本さんの会社と同じで社員から「困っている人が多いからつくろう」という声が上がり、4月中旬には発売。ちょうどアクリルの間仕切りが不足していたこともあり、メディアで取り上げられ大きな反響を呼びまして。当初は大量生産するつもりは全然なく、困っている人にいきわたることだけを考えていたのですが、とてもじゃないが追いつかないので量産体制に入りました。
島本 それ、ニュースで見ました。
松田 ほかにも近畿大学からは教壇前に設置するもの、病院での採血にも使用できる下部をカットするタイプなど、いろんな方面から「こういうものができないか」という声をいただいて10種類ほど商品は増えました。病院でいうと、待合に連結椅子ってありますよね。以前、父親が入院している病院に東大阪製のメディカルフェイスシールドを寄贈したことがあって。そのときに試作段階の待合イス用シールドボードもお渡しし
たんです。価格を抑えるために普通の段ボールで製作していたのですが、これだと毎日、何度もおこなうアルコール除菌に耐えられないと言われて。防水性の高い素材であるミルダンに代えて100台ほど納品しました。
渡辺 当社の「Liquid Jet」は、コロナを意識してつくったものではないのですが。8年前ほど前から企画して開発に入り、昨年ようやく商品が完成して販売をはじめたところです。もともとはスーパーで袋詰めするときに手を湿らせるという用途で生まれたものです。
松田 これは手をかざすと、除菌液がでるんですか?
渡辺 そうです。中に入れる溶液を消毒薬にすることで除菌します。
松田 いいですね。スーパーに設置して欲しいですよね。ぼくも最近よく買い物に行くんですけど、ビニール袋を開けるの苦労するんですよ(笑)。よく、湿らせた布が置かれていますが、不衛生でとても触る気になれない。特にコロナ禍でみんなが衛生面に神経質になっているご時世ですから、お客さんには喜ばれると思いますけどね。
渡辺 あれはストレスがたまりますよね。当初はそれを解消するためにつくったんですが、完成前により広いシーンでの利用を狙って、「除菌」という要素を入れたんです。販売で苦戦していた折に、新型コロナウイルスで感染対策用品としてメディアに取り上げられて、4月以降は少しずつ売れはじめ3,000台ほどの販売実績ができました。まだ儲けにはつながりませんが、自社開発した製品の売り方が少しわかってきたところです。
困りごとに対応して社会貢献する、その喜びがスピード感につながる。
渡辺 おふたりの話を聞いていると、ものづくりのスピード感がすごい。これは社風としてもとからあったものなのですか。それともコロナがきっかけとして動き出したものなんでしょうか。
松田 うちの場合は、東日本大震災のときの経験が活きていると思います。今では考えられない話ですが、当時は避難所に間仕切りがなかったんです。そこで間仕切りをつくって現地に運び、避難されている方に喜ばれたということが、会社にとっては非常にいい経験になりました。
島本 あれで一気に社名が知られるようになったのでは。
松田 そうですね。嬉しかったのは社員の意識が変わったことです。彼らのなかに自社が、「社会に役立つことをしている会社」だという誇りが芽生えたと思うんですよ。それ以降の熊本地震でも製品を寄贈させてもらったり、「困っていることに対応しよう」という気風がこの10年ほどで培われたからこそ、今回も社員から商品開発の声が上がったわけですし。それが結果として、スピード感につながったのかもしれませんね。
渡辺 災害時用のダンボールベッドもつくられているんですね。
松田 これは熊本地震のときから。ただかさばるので、これまではあまり売れてなかったのですが、今回のコロナ禍では災害がおきると避難所が大変なことになると考えられ、大量に購入する自治体もでてきました。そういう意味では自治体の意識も変わったのかなと思います。
島本 社員の意識の変化に関してはまったく同感です。以前、仙台で開催された防災展に出展した際には、年令や性別で色分けして医療関係者がスムーズに回れるようにしたパーテーションや、簡易の鍵つき授乳ブースを提案しました。当時は私が個人で動いていたので、「被災地に寄贈した」と報告しても社員の心にはそんなに刺さっていなかったと思うんですよ。それにくらべると、今回は社員が自発的に考えて工
松田 自発的というところが大切ですよね。
島本 発案から2日で、オンラインショップの立ち上げまでやってくれて。このスピード感が生まれた要因は、3年前から月1回やっている商品開発研修です。3年かけて「社員全員に商品開発マインドを持ってもらう」ための研修で、「挑戦できる環境をみずからつくり、実践できる社風にする」ことを掲げていました。この挑戦できる環境というのが、コロナによって降って湧いた。それはある意味ラッキーだったと思いますが、目先の利益に通じないことを地道に研修としてやってきたからこそ、社員のなかにすぐ動ける意識が培われたのだと思うんですよね。
渡辺 みなさんのような社会貢献にはつながっていませんが、うちもコロナによって社員の意識が高まっているのを肌で感じます。開発当初は、「どうして自社商品なんかつくるのか」と白い眼で見られていましたが(笑)。
松田 はじめての自社商品は、社内の理解を得ることも大変ですから。
渡辺 最近は理解してくれているようです。変な言い方ですが、コロナによって自分たちの商品の価値が上がった形になりましたから。新聞に取り上げられて取り扱い販売店も増えて、想定していなかった業界や地方からも反響がありました。
松田 コロナもこの商品にとってはある意味、追い風になりましたね。
渡辺 初の自社商品ということで、営業方法もいろいろ試していて。たとえば動画をつくってYouTubeで流したり、新しいことに挑戦しています。とはいえこれまで試作中心の会社ですから、販売では苦労してます。そこでみなさんにお聞きしたいのは、自社商品の売り込み方や販売方法です。
島本 今、商社は営業ができずネタに困っているらしいので、そこを攻めてみたらどうですか。商社に売り込んで販売したい人は多いと思いますよ。
渡辺 ええ、販売店はいくつもお声かけいただいています。ただ人まかせにするのではなく、「自分たちで売っていかないといけない」という気持ちもありまして。
松田 とてもいい商品だと思うし、ユーザーとしても欲しいと思う。価格がネックなら高級スーパーに営業をかけてみるという手もありますよ。
島本 そうだ商談会もありますよ。大阪商工会議所主催の「買いまっせ!売れ筋商品発掘市」。これなんかぴったりじゃないですか。
渡辺 そんなのがあるんですね。調べてみます。
島本 今販売やPRについての話がでましたが、ぼくからも質問があります。松田さんの会社は、新聞やTVなどのメディアによく取り上げられていますよね。このへんのノウハウ的なものを教えていただければ。
松田 中小企業はお金をかけた宣伝はできませんよね。そこで6、7年前に大阪商工会議所で「プレスリリースの書き方」を受講したんです。つねに情報を待っているマスコミに、「どうすれば商品を魅力的に伝えられるか」ということを勉強しました。その後は商品ができたら大量にリリースを送ることを続けてきたおかげで、マスコミの人脈ができた。今では新商品発売のタイミングでリリースを送付すると、ありがたいことにどこかが取り上げてくれるようになりました。
島本 やはり、ニュースリリースが大切なんですね。
松田 ただテレビは瞬間的なもので。放送されたあと2、3日はアクセスが集中するのですが、その後ピタッと止まってしまう。これを変えるために、現在は自社サイトが中心ですが、大手オンラインショップでの販売にも力を入れていこうと考えているところです。
今までの常識を超えて社会に役立つものづくりを。
渡辺 当社はリーマンショックで大きな打撃を受けました。そこから立ち上がってようやく盛り返した経験があります。ですから今回のコロナに対しても、生き延びる道を模索しなければならない。今後は既存の仕事を今まで通りこなしながら、新製品を全国に広めていきたいと思います。
島本 私たちの会社はコロナにかかわらず逆境だったので(笑)、言い換えればリーマンショックでも今回のコロナでも、大きく売上は減っていない代わりに、大きく飛躍しないという低空飛行を続けてしまっているので。そこはなんとしても脱却したいですね。
松田 コロナ禍で私自身も人生観が変わりました。日々、家族や社員みんなが健康に生きていることの大切さを実感しています。その気持ちはたとえコロナが終息しても、前の状態には戻らないでしょう。それと現状を見てもインバウンドも厳しい状況で、特長のないものはもう売れない。何か光るものがないと商品を売るのは厳しい。たとえばウィズコロナ/アフターコロナ時代には、衛生面を意識したものが求められます。
渡辺 そうですね。もともと日本人は潔癖症的なところがありましたが、コロナで人々の衛生面に関する意識は、大きく変わったと思います。
松田 だから渡辺さんの製品は時流に合っているんです。うちの場合、今回のコロナ対策の商品は、本当にいろんな方面から反響がありました。これまで個人向けの商品が多かったのですが、それに対して企業からの問い合わせが多く、販売単位も違うので驚いています。ですので、今後は企業向けの困りごとに対する商品開発もしていきたいですね。それと人が困っていることに対して素早く対応すると、ちゃんと売れることが実証されて自信もついた。今後は環境衛生を意識しつつ、ダンボールが「エコな素材」であることを活かした商品づくりをしていきたい。
島本 今までの当たり前が当たり前でなくなって、今までの常識も通じなくなっている。だけど、それを大きなチャンスととらえたい。今、クリーンルームのレンタルサービスも考えていて。全国どこでも設置までする。これによって本業がうまくいかなくても、クリーンルームを導入することでマスク製造など新しいことにチャレンジできます。そういう世の中が活性化するような、最初の足がかりのお手伝いができれば。すぐには利益につながらないかもしれませんが、将来を見据えた社会性のある動きかなと思っています。