MOBI6
ものづくり企業の次の一手は? 毎号6つの旬な記事で熱い「変革と挑戦」を紹介するモビロク。
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伝統の「源邑光」で時代や人に求められる自社ブランド展開へ。
「源邑光(ミナモトノムラミツ)」、この由緒ある名前は1906年に鍛冶屋として創業以来、100余年の歴史を刻む。当時はゴムの樹液採取やロープを切るための特殊刃物の製作を手がけ、1950年に「源邑光北野刃物製作所」を設立、プロ向けの肉切り包丁などの製造をはじめた。その後、牛革をなめす道具を塗装用に改良した「Y型皮スキ」のヒットを機に、建築現場で使われる内外装施工道具の製造をスタート。
当初は壁紙を貼る前のパテの塗布用ヘラや、貼り終えた壁紙の余りを切り取るためのヘラが中心だったが、今ではローラーや刷毛など内装工事関連の製品一式も取り揃え、作業現場を支えている。
4代目である代表取締役社長の北野朋宏氏が事業を引き継いだ頃は、安価な中国製品に押され売上の落込みが激しい時期。そこで現場の職人の声をきちんと製品に反映させる企業として、ユーザーの声を大切にし、一つひとつ形にしていった。その結果、同社の精度の高いヘラは職人から高い評価を受けている。使いやすいパテ用のヘラに必要なしなりを生み出すのは、経験と勘にもとづいた手作業による平面研削盤での加工だ。また今も刃物屋としてのこだわりがある。刃の切れ味と刃が欠けないようにする材料の選別と焼き入れ、2段に刃をつける「コバ付け」までおこなっているのも同業ではここだけ。その心意気が感じられる。
そんな老舗に今、大きな転機が訪れている。2017年に大阪ものづくり優良企業賞を受賞したことをきっかけに、大手外食チェーンや関東圏で大きなシェアを持つジョイフル本田から声がかかった。前者では店内で使用するヘラやプレゼント用ヘラを製作。後者は職人のための店をコンセプトにした専門店第1号『本田屋 千葉都町店』にて、源邑光ブランドの製品を初めて展開。最近ではネットやSNSを活用して特注製品の受注もはじめた。ユーザーの声を反映し、プラスαの機能性を込めた製品であれば、価格勝負せずとも、新しい価値の提案ができる。「顧客から求められているものを、工夫してつくって喜んでもらえることが嬉しい。そしてそれこそ、今の時代に合ったものづくりだと思います」
源邑光北野刃物製作所では多様な要望に応えるため、2012年に中国工場を設置。価格を優先するユーザーには中国製を供給し、より良い使い心地や耐久性・精度を求めるユーザーには日本製を提供している。今後は中国工場を株式会社化して、安定稼働することを目指す。さらに、この工場を中国や欧州市場への窓口として受注をする構想もある。現地の展示会にも出展し、日本製の高付加価値のヘラを使いたい海外の職人をターゲットに、「源邑光」のブランドを生かして「メイドインジャパンの壁紙施工道具」を広めていきたいという。
株式会社源邑光北野刃物製作所
http://www.kitanohamono.co.jp/
東大阪市岸田堂西2-8-12 TEL 06-6729-5656