MOBI6
ものづくり企業の次の一手は? 毎号6つの旬な記事で熱い「変革と挑戦」を紹介するモビロク。
現状打破のヒントやモチベーションアップにつながります。
当たり前のことをきちんとする。だから歳月を経ても永く愛される。
サランラップ、ホッチキス、本来はメーカーの登録商標だが、まるで製品ジャンルの代表のように認知されることがある。それは市場の革新的ブランドである証拠。鍵をつけるホルダー=マーキーもしかり。誕生から40年を超えるこのロングセラー商品をはじめ、くっついたら離れないスッポンフックなど、数々の名品を生み出してきたのが大一鋼業株式会社だ。「当社の商品は、特別な技術や材料を使っているわけではありません。ただ生活者の視点を大切にして“いかに使いやすいか”を考え抜いています。だから長い間、愛されるのかもしれません」。そう語るのは代表取締役 高橋由紀子氏。同社は建築金物の問屋として開業したが、先代がものづくりが好きで次第に製造業のウエイトが増えていった。
初の自社製品はカーテンの留め具「フランスカーテンクリップ」。これが大ヒット。「その次がマーキー、さらにスッポンフックが当たってからは、くっつけるものなら何でも幅広く(笑)」
今でこそ全国津々浦々に販売網を確立しているが、最初は大変だった。「私が社長に就任したときは、スッポンフックが売れず悩んでいました」。あるとき百貨店で実演販売を見てひらめいた。「彼らが説明すると、どんな商品でもひと目で効果が分かる。実演販売で当社商品を扱ってもらえるよう直談判しました」。その目論見は功を奏し、ホームセンターでの取り扱いが決まり、商品は爆発的に売れた。そこで意外なのは、同社がファブレスを貫いていること。何度も自社製造を勧められたが断ったという。「餅は餅屋。自分たちは開発のプロとしての仕事をまっとうしたい」。月1回の企画会議では、外部デザイナーを招き、営業スタッフも一緒になって検討する。「自分たちが苦労して開発に関わった商品には愛着が湧きます。開発スタッフは新しい素材を求めて日々研究するし、営業も自ずと熱が入ります」。常に既成商品のブラッシュアップもおこなわれており、改良点を徹底的に洗い出し、結果を反映させていく姿勢が貫かれている。「最近では商品製造の依頼も増え、メーカーとして認められつつある」と感慨深い。
高橋氏は本社を置く大阪金物団地協同組合の理事長を12年間務めている。ここは国内初の総合卸商業団地として誕生し、今年50周年を迎えた。特筆すべきは福利厚生。「中小企業ですから、一社だけだと満足のいく福利厚生ができないこともあります。それならば金物団地全体でやればいい」と組合が充実した内容を用意し、従業員のモチベーションを高める。さらに、毎年夏には近隣の人にも参加してもらえるサマーカーニバルを開いて、地域とも良好な関係を築いている。話を聞いていると、ものづくりが高揚感に包まれた時代に戻ったかのようだ。
最近は直販などがもてはやされているが、それも是としない。「商いには“商道”という道筋があります。問屋、地方問屋、そこを通ることで少しずつ価格は高くなりますが、代わりに雇用が生まれる。自社だけが潤うのではなく、雇用をつくるほうが大事です。私たちはできるだけ誠実な商売をやっていきたい」。それが置き去りにされつつある時代だからこそ、この言葉は尊く響く。
大一鋼業株式会社
http://markey.co.jp/
東大阪市金物町3-11 TEL 06-6723-0787