MOBI6
ものづくり企業の次の一手は? 毎号6つの旬な記事で熱い「変革と挑戦」を紹介するモビロク。
現状打破のヒントやモチベーションアップにつながります。
ものづくり技術は人を喜ばせるためのもの 「あたたかいを造る」金属加工業
東日本大震災から5年目を迎えた今年3月、岩手県大槌町安渡(あんど)地区にて津波避難訓練が開催された。この訓練では高齢者など要援護者の高台避難に重点を置き、車椅子を改造し前から引く「人引車®(じんびきしゃ)」や、高台への避難路を簡単に作ることのできる「簡易設置式くさり階段」が導入された。
これらの避難用具を製作したのは、マツモラ産業の代表取締役会長の松茂良興治氏。同社は順送プレス・単発プレスなどの金属プレス加工の試作から量産まで一貫製造する、高い加工技術で知られる会社だ。この避難用具を作り始めたきっかけを松茂良会長はこう振り返る。「東日本大震災での津波被害を目の当たりにし、安心安全に避難できる階段を、できる限り費用を抑えて提供することができないかと開発に至りました」。
くさり階段「逃げるんだ・登るんだ」は、複雑な地形にも設置可能で女性・高齢者も登りやすい階段構造になっている。過酷な現場でも大人2人で支柱を打ち込むだけで簡単に設置ができる専用工具を開発。くさりは何mでも延長可能で、荷重は杭に分散されるため大人数で同時に使用することができる。その高い機能性が評価され、平成27年度中小企業新商品購入制度による認定を受け、大阪府でも活用されている。
いっぽう足の不自由な人や高齢者の避難をサポートする「人引車®」は、くさり階段の開発過程で、足の不自由な人が避難施設まで逃げることの難しさを知り開発をスタート。「大八車」から「押すではなく引く」イメージから発案したという。「押される」ことに対する恐怖心を排除し、「引く」力の作用が活用されている。「一般社団法人災害避難研究所」を設立し、所長も務める松茂良会長は東福島・石巻・気仙沼・陸前高田などに直接出向き、この「人引車®」を寄贈している。また、本業の金属加工においても、技術の向上を目指している。プレス用金型の取り替えは早くても15分程度かかるが、同社が考案した「ワンタッチ式金型」であれば2、3分で取り付け完了。このような現場の創意工夫による短納期対応等が評価され、昨年「大阪ものづくり優良企業賞2015」技術力部門賞を受賞した。MOBIO-Cafeのセミナーなどで精力的に情報収集する木村欣祐取締役社長曰く、「顧客とパートナー感覚で仕事ができるよう、将来的にはOEMからODMを目指していきたい」。
工場の隣には巨大な観音像が鎮座する。「日本一小さいお寺の住職でもあります」と松茂良会長は笑う。本業は加工業であり、この避難用具は金儲けのためではないとも。「高齢者や身体障がい者の方で、これらが必要な人は何百万人といます。だから価格を抑えて提供します」。この避難用具は同社の「技術」と「人のため」という考えが合致した製品である。「利益より仕事が増えることが嬉しい。人様に喜んでもらわなければ、ものづくりの喜びもありませんから」。同社の名刺には社名の上に「あたたかい金属部品加工」の文字が添えられている。金属加工は冷たい素材を扱うが、作られたものは人々の心を温めるものでありたい。そんな想いが込められている。
マツモラ産業株式会社
http://www.matsumora.co.jp/
八尾市福万寺町南6-1-3 TEL 072-923-8810