MOBI6
ものづくり企業の次の一手は? 毎号6つの旬な記事で熱い「変革と挑戦」を紹介するモビロク。
現状打破のヒントやモチベーションアップにつながります。
「繊維」がカラダを救う未来へ。
大阪を代表する「糸へん」企業の逆襲。
ものづくり企業が持つ超精密加工技術を活かして、医療分野に進出することが、最近増えている。
圓井繊維機械も、繊維の技術をもとに医療機器分野の新規事業にチャレンジする。
たとえば写真の、丸く薄い繊維の筒。これは「生体吸収性肋骨ジョイント」という、肋骨が折れた時の接着用パイプ。肺の手術などで、肋骨を大きく開いた後、これを使用して接着させることで、骨同士が自然に固まり、しかも体内で溶けてなくなるというもの。
京都大学の先生から依頼を受けて同社が製作した。これまで骨の接合は、一度骨に穴を開けて生分解性樹脂でつくられたピンで止めていたが、肋骨の運動範囲が広いため、動いた時に抜けたり、折れたりすることがあった。
代表取締役社長の圓井良氏曰く「このパイプのメリットは穴を開けず、はめるだけですむ点。
これは融点の異なる2種類のポリ乳酸を、共重合させた糸を編んで熱で固めています。割れない、折れない、しかもニットだから動きに対して柔軟性もある」。同社の強みは、単一の樹脂だけでなく、こうした2つ以上の異なる材料を一体的に組み合わせる「複合材料」の考え方で、ものをつくれる点にある。さらに機械もイチからつくることができる。
この技術で特許も取得し、今後は臨床実験を経て、3年後の実用化を目指す。これが上手く行けば、他の骨への応用や横展開も考えられるという。同社は1970年に創業。繊維加工機械を製造・販売してきた。
特にニット製品のパーツ同士を縫製するリンキングマシンでは、オンリーワン企業として関西のニット産業を支えてきた。ニット工場の中国移転が相次ぐなか、培った繊維加工技術を武器に、新たな市場を開拓する取り組みを続けている。
最近では大阪府の新分野・ニッチ市場参入事業化プロジェクトに参加、医療機器製造業の認可を取るなどサポートを受けている。圓井氏は複合材料に目を向け、社会人大学院生として京都工芸繊維大学大学院にも通い、博士号も取得。在学中にネットワークを築き、卒業後も積極的に、医療関係の講演会や学会にも顔を出していた。
そんなある日、再生医療推進の会合で聞いた話が、圓井氏の意識を一変させる。「ある先生が“人間の体の中は全部チューブでできている”と言われたんです。血管だけじゃなく、内臓はみんなチューブが広がったものだと」。
それを聞いた瞬間、この分野なら自分たちの技術を活かせると確信した。「工業材料というのは、まず強度を求められる。服でいうならスーツやシャツはパリっとしているのがいい。逆にニットは柔らかくフィットするのが特徴。工業分野からはニット構造というのは必要とされなかった。しかし複雑な形状にフィットするニット構造は、医療の現場で求められている。そんな手応えを感じました」最近注目されている再生医療には、細胞、足場材料、および細胞成長因子という3つの要素があり、これらの要素を単独、あるいは組み合わせた形で利用することによって、生体内や生体外で組織・臓器を修復し再生させる。
「iPS細胞発見の次は、それを形にする足場材料となるものが求められる。繊維ならそれを担えるかもしれない。形状も自由になるうえ、間に隙間があることも体液の移動の邪魔にもならず、メリットにさえもなりうる」。
繊維がカラダを救う。そしてそれを牽引するのは、「編む・織る・組む・縫う」の「糸へん」を知り尽くした、この会社かもしれない。
圓井繊維機械株式会社
http://www.marusans.com/
大阪市旭区高殿2-1-15 TEL 06-6923-2615