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次世代経営者が考えるものづくり—「継承」と「革新」の狭間で—

近年、人口減少少子高齢化によるマーケットの縮小、国境を越えたグローバル経済の進行と、ものづくり企業を取り巻く経営環境は大きく変化している。生き残りをかける経営者に求められる「変革と挑戦」とは?高度成長時代は、創業者である「先代」が頼もしく支えてきた。世代交代を迎えた今、いよいよ2代目、3代目の若き後継者たちによるイノベーションが始動している。すでに跡を継いだ篠原氏と小泉氏、バトンを託されるのを待つ居相氏と松原氏。その四者四様の立ち位置から、それぞれに創業者である先代社長との関係が垣間見える。新たなリーダーとして会社の舵取りをおこなう次世代経営者たちが、その胸中を本音で語りあった。

先代の背中を見ながら歩む、後継者の道のり。

アベル株式会社
常務取締役 居相 浩介氏

共栄化成株式会社
専務取締役 松原 美奈氏

居相 6年ほどの会社勤めを経て、入社11年目になります。もともと理系なので、開発部門で研究開発に携わって、現在は製造以外の全部門を見ています。
松原 私は父が経営する会社のパソコンの2000年問題対応で、オフコンからパソコンに切り替える際の、入力業務の手伝いで入りました。当時は専業主婦で子育ての真っ只中。その後、現場に入って現在に至ります。
篠原 2003年に入社しました。自分は先代の娘婿で、それまでは専門商社で営業職。何も分からないのに、いきなり名刺の肩書が「統括」となっており、コテンパンにやられました(笑)。そこからは猛勉強。義父からは「5年経ったら社長を代わってくれよ」と言われ、約束通り代わることになりました。
小泉 中学生の頃から家業の手伝いはしていて、「将来は頼む」と言われていたので、覚悟はしていましたが、昨年父が、急逝して跡を継ぐ事になりました。当時はメッキ場以外の部署にはタッチしていなかったので、他の技術はおろか、重要書類や印鑑の保管場所すら分からない状態でした。
居相 急に跡を継がれて、社員から信頼されている実感ってありますか?
小泉 ともに楽しんで仕事をしていく時間を重ねることで、信頼が築けた気がします。父はワンマンで、自分とは正反対のタイプなので、引き継ぎをしていたら、絶対ケンカしていたと思います(笑)。
松原 創業者というのは、いい意味でも悪い意味でもワンマンで、どうしてもその強さに飲み込まれてしまう。私も父とよくケンカしていた時期があります。今年、社長に就任予定なのですが、悩みがありまして。顧客の関係で売り上げが20%以上減ることになったんてす。売り上げの半分を占めていたので大打撃。一社に重点を置く怖さを肌で実感しました。
居相 うちも同じ経験がありますよ。いちばんの得意先で、燃料電池の中に使う部品を扱っていたのですが、別の方式に変えられまして。社内トップシェアのところがゼロになった。
松原 全体の何割ぐらいを占めていたんですか?
居相 3割です。残りの7割の中で、やり繰りしようとすると従業員も余ってしまうわけで。だからといって人を切るわけにはいかない。そうなると新しい仕事を取ってこないといけない。営業活動が死活問題に関わるほど重要になってきます。
松原 それはいつ頃の話ですか?
居相 今まさにどうしようかというところ。残り7割の中で、伸びている部分をどう成長させるか考えています。

「自社の強み」は何か、それをどう伸ばすか。

株式会社生駒
代表取締役 篠原 篤史氏

株式会社小泉製作所
代表取締役 小泉 達哉氏

小泉 「何でもできるけど、何が強みなのか分からない会社」だったんです、うちの会社。展示会でも研磨、メッキ押しで出展しても全然、人は来なかった。しかし、アルミニウムのパイプ曲げ、溶接の展示には、人がどんどん集まってきました。「尖がったもの」がなければ、目を引くことはできない。
篠原 うちも、先代の頃から特化したジャンルを得意としているので、そういう意味では深堀りしていけばいくほど、いろんな仕事が舞い込んでくるようにはなりましたね。
居相 他社との差別化はどうすればいいかというなかで、「ステンレスのクロ」に特化してやってきました。特化することで受注範囲が狭くなる恐れもありましたが、逆にこれまでまったく関わりのなかった業界から声がかかったりして。私たち自身の視野もずいぶん広がりました。
篠原 ヒントをくれるのはお客様。市場にマッチしていなければ、いくらいいものをつくっても跳ね返されますし、求めるものも変わってきているので。今は高品質・短納期が当たり前となり、本当に求められているものは何かニーズを探り、常に「うちにしかできないもの」を探っていかなければならない状況。
松原 今まさにその問題に直面しています。営業のやり方を変えないといけない。仕事が減ったのも、篠原社長の言葉を借りるなら、クライアントのニーズを掴めていなかったのかもしれません。今は、継続させていただいるお客様とは、より密にしなければいけないし、並行して新しい仕事も積極的に取っていかないといけない。
居相 新規につながるお客様の声を聞くために、展示会はどこに出すべきかが重要だと考えています。そこをしっかり捉えることができたら、市場の声も聞こえてくるし、自分たちに足りないものも見えてくる。そして次回はその課題を解決して出す。今は「売り上げが3割減っても、ほかのところで5割増やせる」くらいの気持ちで、どっちかというとワクワクしているんですよ(笑)。
小泉 すぐにお客様から反応がなくても、数年後に声がかかることもありますよね。
居相 そうですね。1年は動きがないくらいの覚悟は必要。業界の中での知名度を上げるという効果も狙っています。

今後につなげる「社外ネットワーク」を。

松原 あとを継ぐことが決まってから今もずっと「自分らしいやり方」を模索していて、勉強会に参加し始めたんです。2013年におこなわれた株式会社エクセディの清水会長(当時社長)の講演会とビジネスマッチングでのご縁をきっかけに、会長と大東市の若手経営者が集まり、定期的に勉強会が開かれるようになって。
篠原 第2回目から私と松原さんは参加しました。今は10名ほどです。清水会長からエクセディの取り組みや経営者の在り方などを伺い、参加者はそれを持ち帰り、実践したことを報告し、それに対してさらに会長からアドバイスをいただきます。
松原 清水会長はスピードを大切にされる方で。最初の講演会の時も、会長からビジネスマッチングを提案されて、「こういう仕事をやっています」と自己紹介したら、「じゃあ一度お伺いしましょうか」と言われ、翌日には担当者が来られるといった具合。勉強だけでなく自分次第でビジネスチャンスもつかめる、ありがたい場となっています。
篠原 それとまだ実績はありませんが、勉強会に参加したメンバーとネットワークができつつあるのが嬉しいですね。
松原 同じ大東市で近くにいても意外と発注先を知らなかったりするので。情報交換しています。
居相 そういう関係が築けてこそ、経営に関しても言いやすくなる。ぼくも地元の八尾市の商工会議所が運営する「環山楼塾」に参加しています。これは昔、地元のお金持ちが集まって若い人に商売を教えた「環山楼」にちなんだもの。異業種20名ほどの集まりで。勉強会の後に懇親会があるのですが、八尾市の経営者なんだからと、八尾で飲むようになる(笑)。
篠原 地元にお金を落とす。それはいいですね。
居相 そうやって地元に目を向けると、いろんなことが見えてくる。たとえば八尾にはホテルがない。せっかくお客様が来られても泊まるところがない。そんな地域の課題を掘り起こして活動している側面もあります。地域との間に顔が見える関係を築く。それが今、うちの会社の成長を支えてくれている気がしています。
篠原 それは同じですね。基本、他社ができないような仕事がメインです。よそで無理と言われたものでも、「できますよ」と言える。社員からすると「なんで、こんな面倒なものを受注するの?」となるので、毎日やりあってますが(笑)。
小泉 前社長は営業や見積もりまでやっていたので、跡を継いだ当初は、自分だけでなく社内の誰も全体を把握できていなくて大変でした。でもこの状況、逆に考えれば、真っ白な状態でスタートを切れるチャンスと捉え、これまでの財務などをすべて書面化したんです。それと以前は量産中心でリーマンショック後に、3割も売り上げが落ちた。だから今は、量産もしつつ、単品・小ロットの占める割合を増やす方向で進めている。従来の仕事は割り振って任せていますが、新規の仕事は、全部ぼくを通して相談に乗る、という形をとっています。だから社内の風通しもいいですよ。
篠原 生産の現場は基本、寡黙な人間が多い。職人気質といえば聞こえはいいですが。ぼくが入った頃も、挨拶ができなかったり、目があっても逸らしたり。先代は自身も職人だから「仕事さえできればいい」という考え方。さらに親方の鶴の一声で段取りが決まり、自ら考えて動こうとしない。一般企業の常識ではかると、驚きの連続。この状況を変えるために、就任後ずっと言い続けてきました。
小泉 今日、初めてこちらを訪れましたけど、皆さん、すごく明るくて丁寧な印象を受けましたよ。
篠原 5年間言い続け、今ようやくという感じ。昨年からコンサルに入ってもらって、基準もつくっているところです。
居相 基準というかうちの社是は「誠実を旨として和衷協同、超一級の技術を築き上げる人となる」。これ、社長がつくった言葉で、「技術をつくる人をつくる」という発想。社長も職人なので、ものすごく技術にこだわりがある。ただ社員全員にそのレベルまで求めるのは厳しい。だから今、社内で「得意分野に合わせた役割分担」を進めているところです。

先代へのメッセージと、今後の夢。

小泉 先代は会社経営だけでなく、地域のために尽力してきた。今はまだ社内のことで手一杯だけど、自分もそういうところまでいきたいですね。それまで見守ってほしいという気持ちですね。今後はいかに利益を上げるか。そして従業員全員がいかに幸せになれるかを追求したいですね。
篠原 娘婿だから、遠慮があったのかな。生前にもっと先代の想いを聞いたり、自分の意見をぶつけておけばよかった。それが心残りですね。自分も先代が社員を大切にしたところは継承し、現場の人間を前に出してアピールしていきたい。そして会社は存続させてこそ。絶対に潰さないようにしたい。
松原 父とは意見が対立することもありましたが、今ようやく2人で同じ先を見ているかなと思えるようになりました。「父が精魂込めて育てたものを、失敗してなるものか」という強い想いが、今の自分の原動力です。会社をやっていく、と決めた時から考えているのが、社員さんが気持ちよく働けるようにし、利益を上げて社員さんに還元したいということ。それと、お客様に喜んでいただけるものをつくり続けたいですね。
居相 自分自身、社長としての想いもだいぶ分かってきたつもりだし、バトンを受け取る準備はできたかなと。先代には、敷地内につくった「アベル研究所」の研究所長として現役を貫いてもらいたいですね。今後は大切なコア技術に磨きをかけつつ、社長が開発したなかで思い入れの強いものを世に出して、拡販するのが自分の使命かなとも思っています。

今回のトーク会場は、篠原社長の株式会社生駒の休憩室をお借りした。その後の表紙撮影では打ち解けた表情に。

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