MOOV,discussion
はじめよう。図書活
図書館には、豊富な情報の蓄積がある。蔵書には、各種統計も含まれる。また、高価な商用データベースや新聞・雑誌の記事検索などビジネスに必要な情報も多くある。そして、膨大な情報を探して、つなぐコンシェルジュ的な役割を担うのが、図書館司書。こうした、ニーズに合わせた資料情報の提供機能を「レファレンスサービス」と呼ぶ。最近では、全国の公共図書館の多くがハードとソフト、そしてレファレンスサービスによって地域の起業家や中小企業を支援するビジネス支援サービスを活発に展開している。単館で日本最大の蔵書数を誇る大府立中央図書館と、ビジネス・郷土資料に強い中之島図書館府立の両館では、「図書館で出来ることを知ってほしいと様々な取り組みを通しで発信している。今回のムーブディスカッションでは、知っているとビジネスに役立つ図書館の活用法=図書活を特集する。
情報探索のプ口、司書によるビジネスサポート、
『レファレンスサービス』って?
大阪府立図書館は、府立中央図書館と府立中之島図書館の2館。
公共図書館で単館としては日本最大、270万冊以上の蔵書数を誇る中央図書館は総合図書館として、また111 年の歴史を誇る中之島図書館は、大阪、古典籍及びビジネス関係資料を提供する図書館として、相互に連携しサービスを展開している。
起業や新分野への進出などビジネスでの新たな動きには、情報収集作業が伴う。図書館では、館内設置のパソコンにより、利用者は新聞や市場調査など歴史的かつ膨大なデータベースの閲覧や検索が可能で、有料で複写サービスもある。一方、膨大な情報の中から、自力でスピーディーに必要な情報やデータに行き着くのはなかなか難しい。
そんな時、お勧めしたいのが情報探索のプ口である司書による情報探索サポート『レファレンスサービス』だ。図書館の各階カウンターにいる司書に「こんな資料や情報がほしい」と相談すると参考図書やデータを検索し提供してくれるサービス。要望をくみ取りながら利用者がほしい情報を絞り込み、図書館にある本・雑誌・新聞・データベースたインターネットで入手できる情報等、さまざまな情報源の中から利用者ひとりひとりのニーズに合わせた情報を探し出してくれるものだ。
相談する時のコツについて中央図書館 調査相談課の西尾恵一氏に聞いた。
「概要でいいのか、特定の内容についてピンポイントで詳しい内容が必要なのかなどを教えていただけるとスピーディーにお調べできます。仕事で使われたい場合はお急ぎのことも多いので、いつまでに回答が必要かもお伝えいただけるとできる限り要望にお応えするようにしています。事前にご自分で調査されている場合はその内容をお伝えいただくとかぶらない資料やデータを探します」もし情報が見つからない場合は違う切り口の提案を行う。見たい図書等が館にない場合は、各都道府県の公共図書館、大学図書館、国立国会図書館などのネットワークを通じて取り寄せもしてくれるという。
「利用者満足度は良好。1 回ご利用いただくとリピーターになっていただける。しかし周知度はまだまだです。発信を強化し、多くの利用者ニーズに応えていきたい」と司書の想いは熱い。
司書は情報の専門家。
利用者ひとりひとりのニーズにあった情報を探し出し、結びつけるノウハウを持っています。図のような調査相設を「レファレンスサービス」と言います。
図書館利用者アンケート
(中央図書館・中之島図書館HPより)
図書館サービスを活用して市場調査~新ビジネス企画ヘ
企画書作成ワークショップセミナー“図書活Cafe”スタート!
学んで、体験して、図書館の力を実感!
3月3日に中央図書館にて開催された図書活Cafe。ものづくり企業の経営者や社員など14名が参加した。第1部は図書館の仕事に役立つサービスについて中央図書館の西尾恵一氏から紹介。一般には流通していない各種統計の経年資料や法律関係・自然科学系・社史のほか、高額な企業情報や業界情報・各種データベース・ネットで拾えない資料などを無料で入手できることに、参加者から「知らなかった」と驚きの声が多数あった。続いて、中央図書館の徳森耕太郎氏による案内で地下書庫見学へ。約6500㎡もの広さに210万冊が並ぶ、“捨てない図書館”の地下書庫は圧巻だ。貴重書庫や保存方法などを聞くと後世ヘ残す大切さを実感。三輪自転車に乗って本のピックアップをする職員の姿も見ることができ
た。第2部は大阪産業経済リサーチセンター主任研究員、中小企業診断士でもある松下隆氏による「マーケティングセミナ-」。人口減少社会を迎えて、消費傾向が「モノ」中心の時代から「コ卜」中心の時代へと変化していることを踏まえ、今後のビジネス展開に必要な着眼点、新ビジネスの企画書や計画書作成の流れを解説。今回はマーケティングの最初の段階である分析フェーズの情報収集方法と情報ソースを学ぶ。「図書館にあるデータベース『MieNa(ミーナ)』や『Mpac』を使えば、商圏2キロ半径にどんな人が住んでいるのか、どんな事業者がいるのか、何をどのくらい購入しているのか、他の地域とどのくらい違うのかなと市場を把握できます」と松下氏。第3部は「企画書作成ワークショップ」。いよいよ実践だ。3班に分かれてのグループワークで、各グループには、あらかじめ異なった課題が設定されている。
Aグループは「荒本駅周辺で飲食店を開業する」、Bグループは「制服・ユニフォーム專門のクリーニング店を開業する、Cグループは「ゆるキャラ『もずやん』を活用した新商品開発を行う」が課題だ。まずは自己紹介から始まり、リーダー・書記・発表者・データ係と役割を決めてもらう。中之島図書館司書の小笠原弘之氏も含めた計3名の司書が各グループのサポートについた。司書に相談もしながら探してもらった資料やデータベースを元にコンセプトを絞り、企画書にまとめていく。参加者は休憩をとるのも忘れて、3時間を超えるグループワークに集中した。
企画書が完成!
データがエビデンス。説得力のある企画書作成を
最後はグループ毎に成果発表。Aグループは荒本駅2キロ圏内の昼夜間の人工比率や乗降客数、飲食店業種を割り出し、ターゲットを選定。「荒本初!カジュアルイタリアン」の開業を企画した。単価設定や損益分岐点売上高の試算までが盛り込まれた。Bグループは「介護服專門のクリーニング店」の開業を企画。施設まるごとのクリーニングメンテナンスを提案し、介護施設の多いエリアを調べて開業場所は大阪市平野区を選定した。Cグループは商品ではなくサービスへ方向転換し、「大阪ものづくり企業を知ってもらう社会貢献型の工場見学スタンプラリー」を提案した。過去の工場見学の年間参加者数からスタンプ帳販売での売上試算も行った。松下氏は「中小企業の強みは、するどく研ぎ澄まされた現場感覚。そのセンスで信憑性を具体的なデータで証明することで説得力をプラスしてほしい。どんな情報にどんな活用方法があるか、企画を通すためにどう作るか。そのための情報収集にぜひ図書館を使っていただければと思います」と締め括った。
“図書活Cafe”を終えて
参加者の皆さんからは、
「テーブルクロス等のデザインをしているのですが、今日学んだことをすぐに実践してお客様の心を掴むデザインを提案していきたい」(明和グラビア株式会社 営業本部 デザイン企画 桐山幸太郎さん)
「図書館の知らなかったサービスがわかり、参考になりました。自社商品の売り込みにあたって、調査方法や具体的なマーケティングに応用していきたい」(堺刃物素形材研究所 代表 高田恒夫さん)
「独立する予定なので、開業する立地や他社との差別化などマーケテイングを具体的に実践したい。司書さんにいろいろ聞いて数字の裏付けを取りたいですね」(自動車メーカーエンジニア・中村正人さん)等、の声をいただいている。
図書館スタッフも、「参加者の方が時間内で素晴らしい形にされていたのでホッとしました。自分達が提供した資料やデータがどのように活かされていくか、今回はそのプロセスや成果までを見せていただいた。今後の調査相談に活かしていきたいです」と、自らの存在意義を実感し、より一層の機能充実へと思いを新たにする機会となった。図書活Cafeの取り組みを通じ、参加者の皆さんと図書館の距離は確実に縮まったようだ。